当社は、2020年7月より『月刊広報会議』誌上で「データで読み解く企業ブランディングの未来」と題した連載を展開しています。その第26回(9月号)は、「変わるPRイベント・記者会見」をテーマに解説しています。
本トピックスでは、内容をより深掘りしていきます。


 

PRイベント形態の変化

コロナ禍で急速にオンライン化が進む中、PRイベント・記者会見においても、非対面・非接触であるオンライン配信が浸透しました。現在では開催時の感染状況と案件の特性により、ハイブリッド開催・オンライン開催を選択することが一般的になりました。時間や場所の制約が軽減され効率よく参加できるオンライン配信は、出席率増加につながり、今後もハイブリッド開催が主流になると考えられます。また海外など遠隔地から容易にスピーカーが参加できる点においても、コストをかけずにグローバルな対応が可能になり、コンテンツの幅を広げられるメリットも大きいでしょう。
なお、リアル会場ではコロナ感染対策がスタンダード化され、専門医の監修を得るなどして濃厚接触者を発生させない運営が求められる一方、イベント参加人数上限や渡航などの規制緩和による世の中の変化に合わせ、例えば飲食も禁止するのではなく、「どのようにすれば安心・安全に飲食できるか」といった方法を検討し実施するフェーズに移ってきています。

 

広がるPRイベントの対象

ソーシャルメディアの普及により情報伝達は、新聞や雑誌、テレビ、ウェブ等のニュースメディアだけではなく、YouTubeやインスタグラム、Twitter、Facebookなどもその重要な役割を担うようになりました。その結果、PRイベントの対象もインフルエンサーや一般ユーザーまで広がっています。そのため、複数のプラットフォームでオンライン配信をしたり、リアル発表会の現場にインフルエンサーや一般ユーザーを招待したりと、シームレスな情報発信の設計が必要になっています。
一方、インフルエンサーなど個人がメディアとして発信することは、新たなリスクの可能性や課題も考えられます。昨今はステルスマーケティングの問題が取りざたされるように、炎上リスク対策には十分留意する他、アーカイブなど広範囲に及ぶパブリシティ権を含む契約など、会社に所属しない個人とのやり取りには丁寧な説明も必要です。その他、インフルエンサー向け美術造作やコンテンツ設計など、従来にはなかった新たな広報作業が増えており、それらの膨れ上がった業務への対応を事前に整理することも必要になります。

 

PRイベントの変わらぬ本質

メディアへの配慮を第一とし、取材しやすい環境を整えるメディアファーストな運営は今後も変わりません。
それゆえ、メディアの多様化でより多くのケアが必要となりました。例えば、オンライン参加メディアの記事が画一的にならぬよう「ステージ・物撮り」といった通常カットに加え、利用シーンごとの画像のバリエーションを増やしたり、オンライン参加者限定の質疑応答時間を設けたりします。さらに疎外感を感じさせないよう、新発表商品を直前にお届けし、リアル参加と遜色ないきめ細かなケアでオンライン参加メディアの満足度を向上させます。また、出欠管理・情報提供・質問対応が必須なプレス向けにはウェビナーを、ストレスなくスムーズに視聴頂く一般ユーザーにはソーシャルメディアと、対象に合ったプラットフォームで配信します。このように従来に比べ配慮すべき事項が多岐にわたり増えており、広報担当者は発表の内容に専念するためにも、準備・運営については専門家へ依頼することをお勧めします。

 

PRイベント形態は細分化、傾向

今後の開催形態は複雑化しハイブリッド、オンライン、リアルの選択からさらに細分化していくでしょう。
(下図)

図:細分化されるPRイベントの形態

例えば、ハイブリッド開催もオンラインとリアルの単純な組み合わせではなく、多様な対象に合わせた複数同時配信、多言語対応など運営もより複雑になることが想定されます。
またオンライン配信でも、単調なプレゼン映像のみだと臨場感や熱量といったライブ感が伝わり難いという課題に対し、カメラ目線(One to Oneコミュニケーション)で演出効果を加え、伝わるプレゼン映像を事前収録するなど、選択肢が増えています。(画像1)

画像1: カメラ目線が重要なポイントとなるプレゼン動画/「ONE Com」デモ画像

※「ONE Com」(ONLINE NEXT EVENT Communication)とは
海外トレンド「One to One」コミュニケーションを取り入れた次世代型プレゼンテーション映像制作、専門家によるPRイベント設計、Shared領域へのシームレスな誘導を1パッケージ化したオンラインソリューションを株式会社BitStarと共同開発しました。

 

メタバースで進化

またさらなるDX化への対応も必要になるでしょう。2022年が元年ともいわれメタバースが今注目されていますが、PRイベントにおいてもリアリティ、臨場感のある演出が増えてきています。仮想空間上とはいえ新商品サービスが体験できるアプローチは魅力的ですし、またXR(*注釈あり)を駆使した見せ方はインパクトも大きいでしょう。今年のカンヌライオンズPR部門でグランプリを受賞したのもメタバースでのサイクリング・レースのキャンペーンでした。メタバースの特性についてはクラスター社の亀谷氏がOPINIONで語られているように3D空間を自由に動き回れるので、例えば新商品のバリエーションを演出で別の部屋に移動してみせることもでき、アイデア次第でいろいろな施策・展開が可能です。味覚、臭覚、触覚に訴える商品・サービスの発表はリアルイベントの方が効果が高いと見込まれますが、何より1つの空間に人が集まって同じ動画を見た人の反応までわかるのは、プレゼン動画を視聴するだけのオンライン会見では体験できないことでしょう。ただ、発表会の目的は新商品・サービスの取材をしてもらうこと。過剰な演出になっていないか、一番伝えたい情報をきちんとメディアに届けられているのか俯瞰してみることも重要です。その上で案件によっては効果的な演出を上手に活用していくなど、新しいPRイベント・記者会見のカタチが求められています。
*注「XR(クロスリアリティ)」・・・「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」などの先端技術の総称


画像2:PRイベントのための「メタバーススターターパッケージ」

※PRイベントのための「メタバーススターターパッケージ」とは
メタバースでのPRイベント・記者会見のトライアルに最適なスターターパッケージをクラスター株式会社と共同開発しました。

 

OPINION 今後のPRイベントDX化、メタバースに注目

クラスター株式会社
エンタープライズ事業部
プランナー 亀谷拓史

「cluster」はスマートフォン、パソコン、VRの如何なるデバイスでもアクセスすることができるメタバースプラットフォームです。エンタメ要素の強いイベントの他、直近は企業様の周年イベントや採用イベント、表彰式などの社内イベントでもご活用いただく機会が増えています。従来のオンラインイベントと比較して「3D空間」を使ったイベントが開催できるので、画面上でイベントを観覧するだけではなく、他の参加者や登壇者の顔が見られたり、自分の意志で空間内を歩いたり、何かを持つ、乗る、など「身体性」を伴う体験を作ることが可能です。イベント中にミニゲームなども入れ込めます。広報面でも、例えばPRイベントでは遠隔の記者の皆様も現地にいなくても取材に入ることができる他、施策の新規性自体が高いので、さらなるPR効果も狙うことができるかと考えています。


画像3:「cluster」にて実施されている社内MTGの様子。

 

執筆者

斉藤 裕
電通PRコンサルティング 情報流通デザイン局 チーフ・コンサルタント
イベント制作会社からPR会社(イベントセクション)を経て、2012年電通パブリックリレーションズ入社(当時)。PRイベント、記者会見をはじめ、セミナー、シンポジウム、一般消費者イベント、海外イベント、プロモーション等、20年以上に渡りイベント業務に従事。国内外企業、官公庁、団体等幅広いクライアントのイベント実績を多数保有。コロナ禍以降は、オンラインイベントおよびハイブリッドイベントの責任者として、数多くのオンライン配信業務にも関わる。


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