広報やPRに携わる方が、日々メディアと向き合う中で、こんな疑問を持つことはないでしょうか。
「テレビの情報番組って、どうやってネタを見つけているんだろう?」
「どんな企画なら取り上げられるのだろう?」
PRパーソンの強みの一つに、メディアリレーションズがあります。お互いにとって良い信頼関係を築くためには、メディアの制作現場を理解することが重要です。そこで今回は、テレビ制作歴20年のディレクターの方(以下、A氏)に、ニュースの判断基準などについてリアルな視点をお伺いしました。
■ディレクターA氏 プロフィール
キー局の情報番組や報道番組など20年以上経験。世の中の関心ネタに常にアンテナを張り、視聴者の興味・関心に寄り添った放送を意識。
メディアを取り巻く環境は大きく変化し、制作現場でのコンプライアンス意識が高まる中で、情報の扱いや企画の透明性について、以前よりも慎重な判断が求められるようになったと言われています。
そうした中で、ディレクターのA氏が繰り返し話していたのは、「どんな企画かよりも、なぜ“今”その企画を取り上げる必要があるのか」ということでした。「その理由を説明できるかどうかが、企画の評価を大きく左右する」と言います。人脈や経験が十分でないと悩んでいる新任や若手のPRパーソンも、企画の組み立て方やメディアの方への話し方が勝負の鍵になるかもしれません。
ーー番組で紹介する話題は、どうやって決めていますか?
A氏:番組にもよりますが、取り上げるものは「ネタ会議」で決まります。私の担当番組では、担当者が複数のネタをそれぞれ会議に持ち寄り、その中からオンエアするネタを決めていきます。
1ネタを説明できる時間は、実は30〜40秒ほど。つまり「30秒で面白さが伝わらないネタは通らない」とも言えます。
ーー30秒で内容を伝えるのは、難しそうですね。
A氏:重視すべきは、テレビの基本構成でもある「結論ファースト」です。会議でもその順番でネタを話すことが多いです。
① 結論(何がニュースなのか)
② 背景(なぜ起きているのか、論拠など)
③ 取り組み(取材先の企業が何をしているのか)
例えば、あるファストフード店の新商品ネタを社内会議にかける際に、以下のように話を組み立てます。

① 結論
今、中南米の料理に使われるHOTソースが巷で流行っているんです。
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② 背景
実際、都内にある飲食店ではそのソースを使ったお店に行列ができていまる。町のスーパーではソースの特設コーナーができてよく売れています。SNSでは家庭で作れるレシピが話題になっています。
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③ 取り組み
そうした中で、ファストフード店でもHOTソースが使われている新商品が発売予定です。
商品等の取り組みについて伝えようとすると、あれもこれも詳しく説明したくなるものです。ですが、最初に「結論=何がニュースなのか?」を話すことが重要です。結論が先に分かると、その後の背景や取り組み理由もすんなり理解できます。
企業の広報担当者やPR会社の方からネタの持ち込みを受けることがありますが、商品などの取り組みの説明ばかりされる方もいますが、それはプロモーション。プロモーションは報道では扱いません。あくまでも社会の動きやトレンドがニュースであり、それらを入り口にする必要があります。
ーー30秒で説明するためには、一言で伝わるかどうかが重要なのですね。
A氏:テレビ番組では、画面右上にテロップが出ることがあります。テロップは、それだけでもネタの内容が伝わるように構成されています。文字数にすると、およそ12文字程度。それくらいの短い言葉で説明できると、ネタの理解がしやすくなります。
ーーそう考えると持っていく側も整理しやすいですね。文字数でいうと、「Yahoo!ニュースのトピックスの見出し」とも考え方は似ていますね。
ーー取り上げたくなるネタの「判断基準」を教えてください。
A氏:近年の制作現場では、生活者視点のニュースに尺を割き、しっかり向き合うことを、より重視する傾向があります。
最近では、コロナ禍の影響が大きいのではないでしょうか。人々がニュースを気にするようになって、世の中が報道への関心を取り戻したように感じます。それにより、これまで以上にニュースをしっかり伝えていこうという意識が高まり、原点回帰するきっかけになっています。
例えば、異常気象・物価高・食材価格・国際情勢などはこれまでも多く取り上げられてきた文脈ですが、それぞれを単体で話すのではなく、どのように生活に影響を与えるかという視点で、つながりをもたせて報道することが増えています。
象徴的なのが「天気コーナー」の変化です。番組によっては、天気コーナーの中で、天気を伝えるだけでなく、それがどのように生活者に影響を及ぼすかまで踏み込んで伝えています。
例えば、最近の天気の傾向や予報に加え、気候による「野菜の価格上昇」などについてです。その放送を見て、夕方のお買い物に出かけたときに役に立つなど、生活者の行動を変える情報を提供できるような内容にしています。
ーー企業の取り組みであっても、生活の中で「今何が起きているのか」を説明でき、その上でその取り組みがどう関連するかどうかが、ニュースになるかどうかの分かれ目なのですね。
ーーニュースで取り上げるネタを探すときは、何に注目していますか?
A氏:生活に直結するものだけではなく、生活者の中で今「現象」になっていることにも注目します。SNSで話題になっていることや、行列ができているもの、同じ時間に多くの人が一斉に見ているスポーツの大会などもその一例です。
ーー先ほどのお話の「背景」にあたる部分ですね。
A氏:そうですね。すでに話題になっている現象だけでなく、その「兆し」になるようなネタも、取材のきっかけになりやすいです。例えば、あるテーマについて企業の取り組みを取り上げる場合、専門家への取材などを通じて、
・そのテーマについて専門家への相談件数が「増えて」いる
・ある領域において「新しい傾向」が出てきている
といった、現象の兆しとあわせることで、企業の取り組みを社会の動きの中で位置づけることができます。企業の取り組み単体ではなく、どのような社会の変化の中にあるかを、納得感を持って説明できるかどうかが重要です。
ーー企業担当者も「その領域の現場の専門家」とも言えますよね。
A氏:まさにそうですね。企業だからこそ把握している、その領域の兆しが、取材のきっかけになることもあります。
ーーAさんが接する中で、“よいPR・広報担当者”とは、どんな人だと思いますか?
A氏:日々、番組にはメール等で企業の広報担当者やPR会社からネタが持ち込まれ、実際にお会いして説明を受けることもあります。多くの人は「どう自社ネタを売り込むか」を考えがちです。
ですが、「うまいな」と思う方は、「売り込み」という形ではなく、話をしている流れの中で「ニュースにできそう」と自然と思えることが多いです。アプローチが違うんですよね。
例えば、
・最近、こんな「データ」が出ている
・こんな「現象」や「兆し」が起きはじめている
・実は、こんな「生活者の悩み」が増えている
といった軽い情報の中で、「へぇそうなんだ」「それ面白い」と、話がどんどん広がり、企画につながることがあります。
一方で、説明用に10枚ほどの詳細資料を渡されることがあります。でも、制作現場でじっくりと全てに目を通すことは、時間的にも難しいものです。
繰り返しになりますが、局内のネタ会議で説明できるのは30秒。そのため、制作現場では30秒で理解できる簡潔な資料が求められます。カラーやレイアウトなどもとてもよく作り込まれている資料よりも、要点だけを伝える概要資料を持ってきてもらえる方が助かったということが何度もあります。
ーーメディアプロモートにおいては、「簡潔に、印象に残る」ことが、とても重要な視点ですね。
A氏:自社だけのストーリーを作り上げすぎず、ニュースとして成立するかを考えること。また番組側でどう組み立て、取り上げるかの余白を残してもらえた方が、企画や取材はしやすくなります。
今回の話を、ネタ判断基準として3つのポイントにまとめました。
➀ 「なぜ今なのか?」を説明できる
② 「生活者」の現象や兆し、困りごとをとらえている
③ 「30秒」でニュースとして伝えられる
つまり、企業の取り組みをそのまま伝えるだけではなく、それがどんな社会の動きや生活の変化を表しているのか。そこまで整理できて初めて、ニュースとして取り上げられる可能性が高まります。
広報とPRの仕事では、メディアに情報を届けることも重要な手法の一つです。だからこそ、制作現場がどのように企画を判断しているのかを理解しておくことは、今まで以上に大切になっているのかもしれません。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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