生成AIの新たなリスク“ワークスロップ”~広報担当者に求められるAIの使い方~

clock 2026.06.29
生成AIの新たなリスク“ワークスロップ”~広報担当者に求められるAIの使い方~

「取引先の課題をAIで調べました」「記者会見の想定質問 をAIで作りました」。

こうした言葉とともに、メールやチャットで書類が送られてきたときは、“要注意”です。

ファイルを開くと、大抵がっかりすることになります。広報の現場で活用するレベルに達していない、“使えない”書類であることが多いからです。

AIの活用で新たに発生しているリスクについて、危機管理広報コンサルタントがレポート します。

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目次

  1. 1.かえって仕事が増える“ワークスロップ”
  2. 2.なぜ“使えない”のか
  3. 3.“ワークスロップ”による損失
  4. 4.実際の広報業務で発生したクライシス
  5. 5.広報業務でAIをどこまで利用すべきか
  6. 6.成果物の質を判断できるPRパーソンになるために

かえって仕事が増える“ワークスロップ”

企業における業務での生成AIの利用率は、日本で55%を超えたという調査*1があります。

筆者も、会社の導入したAIツールを日常的に利用しています。しかし、効率を高めるために導入した生成AIによってかえって仕事が増えたと感じるジレンマに直面しています。AIの生成物の中には、一見洗練されているようで、実際には中身や本質を伴っていないものがあるからです。受け取った側は確認や修正に追われ、余計な時間や手間をかけることになります。

このようなAIの生成物は、スタンフォード大学のソーシャルメディア研究所と米ベターアップ・ラボが2025年9月に発表した論文で「ワークスロップ」と表現しています*2。ワークスロップは、「ワーク=仕事」と「スロップ=残飯」を組み合わせた 造語です。

また、英語辞典のメリアム・ウェブスターは、「2025年の言葉」として、「スロップ」を選びました*3。AIを積極的に利用する国や地域では、「ワークスロップ」がすでに大きな問題として認識されています。

*1 令和7年版情報通信白書

*2 AI-Generated “Workslop” Is Destroying Productivity by Kate Niederhoffer, Gabriella Rosen Kellerman, Angela Lee, Alex Liebscher, Kristina Rapuano and Jeffrey T. Hancock

*3 https://www.merriam-webster.com/wordplay/word-of-the-year

 

なぜ“使えない”のか

AIの生成物が“使えない”と感じるのは、なぜでしょうか。

冒頭で例示した「取引先の課題をAIで調べた」文書の場合、細かく出典が記されていないケースがあります。それらしく整理されているように見えても、ハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)が起こっている可能性もあります。詳しい情報を持ち合わせていない取引先のことを調べさせるのであれば、なおさら生成物の真偽を見極める必要があります。真偽のはっきりしない内容を提案書に盛り込んだり、プレゼンテーションで自信を持って語ったりすることはできません。結局、文書の細部にわたるまで、一次資料に当たって調べ直すことになります 。

また、「記者会見の想定質問 をAIで作った」場合はどうでしょう。こちらはもっと“使えない”と感じます。記者会見は、状況によって展開が変化する、いわば“生き物”です。記者はニュースリリースに未記載のことや曖昧な部分に着目して、事実関係を尋ねます。登壇者の冒頭説明や配布資料でどこまで情報が開示されているのか。登壇者が質問を受けてどのように回答するのか。それらによって、次の質問の聞き方も変わってくるのです。記者会見のタイトルや配布資料だけをAIツールに読み込ませて、想定問答の作成を「丸投げ」すると、どこかかみ合わない資料になることが多い印象です。

 

“ワークスロップ”による損失

先に紹介したスタンフォード大学などの論文によると 、アメリカ国内のさまざまな業界に勤めるフルタイムの従業員1,150人を対象とした調査で、40%が「過去1カ月以内にワークスロップを受け取ったことがある」と回答したといいます。

そして、ワークスロップによる1件当たりの対応に平均1時間56分費やし、1人当たり月額186ドルのコストがかかり、従業員1万人規模の組織の場合、生産性低下による損失は、年間900万ドル超に上る計算になるということです。

 

実際の広報業務で発生したクライシス

ワークスロップによる損失は、時間や手間だけにとどまりません。組織の信頼を毀損 (きそん)する事態に発展することもあります。

陸上自衛隊の第1師団第1普通科連隊が2026年4月29日、部隊の新しいロゴマークを公式X(旧Twitter)のアカウントに公開しました。

ロゴマークでは、第1普通科連隊の傘下にある第4中隊がシンボルとしてきたゾウが、銃を手にしています。また、どくろや鎖を身に着け、左目から青い光を放つ様子が描かれていました。

このロゴマークに対して、構図がタイ国境警備隊に関連する団体のエンブレムと似ているという指摘がSNS上で寄せられました。また、絵柄が好戦的であり、「専守防衛」を掲げる自衛隊のイメージと乖離(かいり)しているといった批判の声も相次ぎました。

これを受け、部隊はロゴの使用の中止を発表しました*4。陸上自衛隊は、報道機関の取材に対し、「ゾウ」「擬人化」「かっこいい」「青い炎」などの言葉を「ChatGPT」に入力して作成し、その画像を上官が承認したという経緯を説明しています*5

AIを活用した広報を行うとしても、対外的な発信の最終的な判断と責任は、やはり「人」にあることを改めて認識させる事例でした。

*4 https://x.com/1i_nerima/status/2050542067957502329?s=42

*5 https://mainichi.jp/articles/20260503/k00/00m/040/153000c

 

広報業務でAIをどこまで利用すべきか

では広報業務において、AIをどこまで利用すべきでしょうか。

「プレジデント」2026年5/29号 のAI特集の中で 、元Google幹部社員の橋口剛氏が「『AIに絶対やらせないこと』リスト」という寄稿をしています。その中にヒントとなる言及がありました。

「AIの分析を『補助線』として使うのと、『答え』として使うのとでは、リスクの大きさがまるで違います」 

「もう一つ、あまり任せていないのが、『全体の構成を設計すること』です。コラムや提案書を書くとき、構成について生成AIと壁打ちはしても、大枠の構成は自分自身で組み立てたほうがいいものができると感じます」

橋口氏 は、特に「意思決定」と「全体構成の設計」をAIに任せ過ぎない重要性を指摘しています。

ニュースリリースや登壇者のスピーチ原稿、想定問答やクライシス発生時の謝罪文など、広報業務において生成AIを頼りたくなる場面は多いです。文中の誤字・脱字・表記揺れの確認、文章の簡略化、外国語の翻訳など、AIを補助的に使うこと自体は否定しません。しかし、情報の受け手に対して行動変容を促すことが目的である文書の構成やその成果物の最終判断は、それぞれのPRパーソンが責任を持って対応したいところです。

AIはすでに世の中に存在している情報や表現を学習しています。そこから生成した物には、2023年の記事で指摘したように、誤りや著作物が含まれている可能性があります。偏見や差別も紛れ込んでいるかもしれません。発表する成果物に「AIで作りました」などと注釈をしたとしても、これらは組織としての発信として受け止められ、言い訳にはなりません。組織の発信物に関して確認する“最後のとりで”である広報担当者の責任は、生成AIのなかった時代と今とでなんら変わりはないのです。

 

成果物の質を判断できるPRパーソンになるために

“ワークスロップ”がまん延する今、PRパーソンに求められるのは、生成AIの成果物の質を判断する力です。

自分で文章を書く。イラストや図を描く。映像や写真を撮影する。こうした経験を重ねたことのない人が、AIの生成物に潜むリスクに気付けるわけがありません。

生成AIという「補助線」を生かしながら、アナログに自らを鍛えるしかない。それがAIツールを3年余り使った、私なりの結論です。

 


電通PRコンサルティングでは、生成AIの活用に伴う広報課題やレピュテーションリスクへの対応を含め、企業とステークホルダー、社会との信頼関係づくりに向けたコミュニケーション設計を支援しています。お気軽にお問い合わせください。

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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統合コミュニケーション局リスクマネジメント部 シニア・コンサルタント

山田 美樹

テレビ局の記者として約10年間勤務。青森県で警察と市政、福島県で県政や教育委員会の取材を担当。その後、東京で国際ニュースを中心に、全国放送のニュース番組を制作。
2021年より現職。メディアの視点を生かしたリスクコンサルティングや報道論調分析、危機管理広報マニュアルの作成のほか、セミナー・取材トレーニングの講師・記者役として従事。

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