──Podcastとはどのようなメディアですか。
野村 高文氏(以下、野村):トークを中心としたインターネットで配信される音声コンテンツのことで、さまざまなジャンルのチャンネルがApple PodcastやSpotifyなどの配信プラットフォームを通じて提供されています。
パーソナリティーの一人語りやゲストと交わす会話を楽しむという点ではラジオと同じですが、Podcastはインターネット上に蓄積されたエピソードをいつでも聞けるアーカイブ性を持ちます。さらに、Podcastに動画を組み合わせた「ビデオPodcast」も登場し、楽しみ方も広がっています。
──Podcastは、どのように成長してきたのでしょうか。
野村:先行して成長しているのが米国で、著名なPodcastのパーソナリティーが音声メディア企業などと巨額な契約を結んだり、動画配信プラットフォームがこの分野に本格参入するなどの展開が続いています。2025年の利用率は約50%に達し、10年前から約35 %の伸長をみせました。
日本では2010年にラジオ局が、放送した番組を編集してPodcastとして配信を始め、コンテンツが急増したのがコロナ禍で、2020年ごろから深夜ラジオカルチャーの流れをくんだお笑いチャンネルが次々と登場。優れたチャンネルを表彰するイベントも開催されて認知が広がりました。さらに2024年の米国大統領選で、候補者がPodcast番組に次々出演したことからその影響力に注目が集まり、2025年以降、日本の政治家やビジネスパーソン、ライター、芸能人、企業などによるチャンネル開設が続きました。利用率は増加傾向にあり、2025年のPodcast利用率(月間)は18.2%まで伸長しています。
──Podcastのユーザー層について教えてください。
野村:ユーザーは大きく2つの層に分かれており、お笑いコンテンツを聞くようなエンタメ好きの若者と、ニュース番組や経済・教養コンテンツを聞くような知的好奇心が強い30~40歳代のビジネスパーソンです。若者の利用の多いプラットフォームがSpotifyで、人気ランキングを見るとエンタメ系のチャンネルが上位になっています。ビジネスパーソンの利用が多いのがApple Podcastで、ニュースや経済・教養系のチャンネルが充実しています。とくに若者の利用率は高く、最新の調査では、PodcastはTikTokの利用率と大きく変わらないという結果もあり、メディアとして浸透している様子がうかがわれます。

グラフ・ランキング:「第6回ポッドキャスト国内利用実態調査」(2026年2月)オトナル・朝日新聞社調べをもとに電通PRCで作成
https://otonal.co.jp/podcast-report-in-japan06
──動画など視覚情報が支持される今、なぜ音声による情報発信が注目されるのでしょうか。
野村:情報過多の現代社会において、SNSではとくに、ショート動画をはじめ、目にした1秒で人々の注意を獲得しようとするコンテンツが急増しています。そうしたアテンションエコノミーの時代では、せわしなく情報に追われる圧迫感に疲弊し、より自分のペースで情報に触れたいというニーズが浮上しています。その点、Podcastはユーザーのペースで穏やかにコンテンツが選べる設計となっており、押しつけがましくありません。
また、生成AIの登場により、自動生成された情報を誰でも発信できるようになり、情報が均一化される傾向が強まっています。そのなかで、情報の価値を左右するのは、“誰がどんな背景や体験をもとに語っているのか”という点になります。人々は情報の有用性だけでなく、語り手の価値観や人柄を重要視し、人間そのものをコンテンツ受容の動機とするようになっています。
Podcastは、長尺で語ることができる場であるため、本音や価値観、普段の人柄など“その人ならではの一面”が表れます。加えて、リスナーには語り手との会話の現場に居合わせているような、距離の近さを感じさせることもできます。人の息遣いや感情、言葉に込めたニュアンスなどが届けられるPodcastは、情報とともに人間性が伝わりやすいメディアであり、今後ますます存在感が増すと予測できます。
──Podcastの特長を、動画コンテンツとの比較で教えてください。
野村:ユーザーにとっては、タイパのよい“ながら聞き”ができるというメリットがあります。聞いている間は画面を意識しないのでコンテンツを飛ばされにくく、動画よりも長時間にわたり集中して接触できます。実際、Podcastの30分のエピソードの「完全聴取率(最後まで聴いてもらえる率)」は経験上、7割から8割です。
また、Podcastでは、動画のように1本ずつのコンテンツでバズを狙うのではなく、テーマに沿った発信の継続性を重視します。そのため、爆発的な広がりは生じにくいのですが、徐々にフォロワーを獲得し、蓄積されたエピソードが安定的に聴取されていきます。また、システム上、再生数やコメントが表示されないため反応が穏やかです。YouTubeや他のSNSのようにコメント欄が荒れてフォロワーが離れるリスクが低く、安定的な聴取が続き信頼や親近感の醸成につながります。
──Podcastは企業PRのメディアとしてどのように使うと効果的でしょうか。
野村:企業の持つ価値や事業内容を、話し言葉や対話を通じてわかりやすく説明できるため、企業や製品のブランディング全般に活用が可能です。とくにBtoB企業など保有する価値が伝わりにくいという悩みを持つ企業にも適したメディアだと思います。このほか、アニバーサリーイヤーなど企業の歴史や蓄積した技術などを改めて整理し未来に向けて発信する節目のタイミングでの利用も目立ちます。若者の聴取が多いことに着目し、採用広報で実施するケースも見られます。
また、企業のPodcastでは、社外に向けた配信にもかかわらず社員が聞いており、社内広報を同時に叶えているというケースが見られます。例えば、ベテランの社員に登場してもらい、過去の会社の様子や開発技術などの体験談を語ってもらうことで、会社の歴史や社員自身の立ち位置への理解につながります。
このほか最初から社員を対象にした社内ラジオのような配信も可能です。役員がゲストとして登場して自分の趣味を語るなど、人となりが伝わるトークを行うことで、社員と経営陣との距離を縮めてエンゲージメント向上に役立てることもできます。
──企業がPodcastを利用する際の留意点を教えてください。
野村:制作にあたっては、Podcastを通じて宣伝をしようとせず、「価値の提供」を起点とします。その企業が持つ価値ある情報を掘り起こし、リスナーの視点に立ったギブファーストの精神でテーマやトーク内容を考えます。
トークの内容は「人間性×専門性」を打ち出すことをおすすめします。その企業ならではの専門的な情報を提供しつつ、パーソナリティーやゲストの人となりがわかるような話、例えば、性格や好み、失敗談などを適度に織り込むことで、聞く人をひきつけます。本筋を押さえていれば、ときには話が脱線することもコンテンツの味になり、共感されるチャンネルに育っていきます。
チャンネルの顔になるパーソナリティーについては、出演者を絞り「固定のパーソナリティーが継続的に出演すること」が大切です。パーソナリティーを好きになってもらうことが継続聴取の大きなきっかけであるため、これが変わると番組の魅力や信頼性を損なうことになります。そのため、実際の運用ではプロのパーソナリティーを継続的に起用し、そこに社員アシスタントやゲストが加わるパターンが一般的です。
──Podcastの効果を測る方法はありますでしょうか。
野村:長期展開でじわじわと固定ファンを獲得するメディアですので、短期で評価することはおすすめしません。指標としては、SNS上のコメント数や反応、コンテンツの時間に再生数を掛けた接触時間があげられます。
YouTubeの再生数と比較してしまうとPodcastは効果が出ていないという感覚になってしまうこともありますが、動画は離脱率が高いというデメリットもあります。Podcastは数千人のリスナーが毎週聞いてくれる状態を再現性をもって作ることができるメディアです。その数千人が毎週必ずコンテンツを30分完全聴取している点を考慮すると、比較的単価が高い事業であるといえるでしょう。
──動画のような視覚情報がないと、コンテンツを発信しても認知されにくいのではないのでしょうか。
野村:Podcastは視覚情報が限定されるため、動画やテキスト情報に比べると、偶発的に発見されにくく、リスナー獲得までに時間がかかる面はあります。一方で、関心のある人に届いた後は、継続的に聴かれやすいメディアでもあるため、最初の接点をどうつくるかが重要です。その対策としては、他のSNSでの告知や、適切なカテゴリー設定によりPodcastのプラットフォーム内でのおすすめ表示にのることが効果的です。
このほか、地上戦での告知も有効で、とくに企業Podcastの場合は想定されるリスナーが数百人~数千人規模のため、日常で交流のあるステークホルダーに直接お知らせするだけで目標に到達することもあります。具体的には、名刺にチャンネルやコンテンツの二次元コードを印刷して配るなどの方法で面識のある人に告知する例もあります。この方法は、リーチしたい層が明確なBtoB企業の技術広報などに有効です。
また、動画も併せて発信できるビデオPodcastを配信したり、収録の様子を収めた動画からサムネイルやショート動画を制作することで、視覚情報の不足を補いながら、Podcastへの流入を促すこともできます。
情報が次々と流れ、短い時間で人々の関心を取り合う時代において、Podcastは、リスナーが自分のペースで情報に触れられるメディアです。一つのコンテンツに長く接触してもらいやすく、声や言葉を通じて発信者の人柄や価値観まで伝えることができます。リスナーは単に情報を受け取るだけでなく、語り手の考え方や人間性に触れることで、長く付き合うファンになっていきます。
こうした特徴は、社員の価値観や働き方を伝える採用広報、経営層と社員の距離を縮める社内広報、顧客との継続的な関係づくりなど、企業とステークホルダーとの「長く深い関係性の構築」に生かすことができます。また、技術・学術・研究に関する専門的な知見や、企業の歴史、商品・サービスの開発背景など、社内に蓄積されていながら世の中に十分に伝え切れていない価値を発信する手段としても適しています。
企業Podcastを運営する上で重要なのは、商品やサービスの宣伝を第一の目的にしないことです。その企業ならではの専門的な情報に、出演者の経験や価値観、失敗談といった人間性を掛け合わせ、「人間性×専門性」が感じられる番組にすることが、継続的に聴いてもらうためのポイントです。
さらに、番組の顔となるパーソナリティーが継続的に出演し、安定して配信を重ねることも欠かせません。リスナーがパーソナリティーに親しみを持つことで、番組への信頼が育ち、次のエピソードも聴きたいという継続聴取につながります。
Podcastは、短期的な再生数だけで効果を判断するメディアではありません。誰に、どのような価値を届け、どのような関係を築きたいのかを明確にした上で、信頼感や親しみのある「人の声」による中長期的なコミュニケーション施策として設計することが大切です。企業の中に眠る専門性やストーリーを掘り起こし、継続して届けていくことが、企業Podcastを価値あるメディアへと育てる第一歩となるでしょう。
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