「カンヌライオンズ2022」PR部門受賞作紹介も今回が最終回です。シルバーを受賞した三つのキャンペーンを紹介します。

MONOPOLY OF INEQUALITIES

ブランド(クライアント): OBSERVATOIRE DES INEGALITES
エントリー会社/アイデアクリエーション、PR会社:HEREZIE(パリ)

動画提供: OBSERVATOIRE DES INEGALITES、HEREZIE

OBSERVATOIRE DES INEGALITESは、フランスにおける人種や性別、障害等による不平等の状況を調査、定量化し「不平等に関する報告書」を発行している非営利団体です。このレポートの内容を理解しやすい形で伝え、若者にリーチする方法を探した結果生まれたのが、モノポリーを活用したゲーミフィケーションのアイデアでした。この「不平等モノポリー」では、例えば障害のあるキャラクターは駅にアクセスできなくなり、社会的弱者は特定の地域の家を購入できなくなるなど、現実のデータに基づいた100を超えるルールの変更を行っています。ゲームの参加者は自分以外の属性でプレーすることで、他者が受けている不平等を理解し、共感を生み出すことができます。

 

画像提供:OBSERVATOIRE DES INEGALITES、HEREZIE

画像提供:OBSERVATOIRE DES INEGALITES、HEREZIE

画像提供:OBSERVATOIRE DES INEGALITES、HEREZIE

画像提供:OBSERVATOIRE DES INEGALITES、HEREZIE

 

このゲームは最初の1週間ですぐに売り切れてしまうほど話題になり、フランスの50%以上の中学、高校で導入されることになったとのことです。
ゲームを使ったPR活動は他にもいろいろありますが、本施策では世界で最も有名なボードゲームの一つであるモノポリーを使ったこと、またモノポリーのルールが不平等の理解促進に非常によく結びついた点が評価ポイントだと思います。現地審査員の一人は「自分が思いつきたかった」とコメント。まさに「その手があったか!」な手法でした。

BACKUP UKRAINE

ブランド(クライアント):POLYCAM 、 UNESCO
エントリー会社/アイデアクリエーション、PR会社:VIRTUE WORLDWIDE(ニューヨーク)

個人的にはオンライン審査の段階で最も評価したキャンペーンの一つです。
ロシア軍のウクライナへの爆撃により、ウクライナ国民のアイデンティティーを支える建築物や銅像などさまざまな文化遺産の破壊が進みました。ユネスコは3D技術のベンチャー企業POLYCAM社と協力し、これらの遺産が物理的に破壊されても、3Dデータとして残して将来再建できるようにすることを目指しました。そこでスマートフォンのカメラとGPSを使用して、誰でも高品質な3Dモデルをキャプチャできる無料アプリを配布しました。

単にデータを残すだけではなく、たとえ物理的に破壊されても、文化そのものを破壊することはできない、という強いメッセージであり、また国民全員が参加できるという点も素晴らしいと感じました。毎週平均2246回のダウンロードがあり、現在の進捗率で9月にウクライナ中の文化遺産がスキャンされるペースだといいます(その前に侵攻が終結するとよいのですが)。

エントリー会社のVIRTUE WORLDWIDEは、Vice Mediaグループのクリエイティブエージェンシーです。Vice Mediaは、ソーシャル&インフルエンサー部門でのグランプリをはじめ、今回多くの賞を獲得したキャンペーン「THE UNFILTERED HISTORY TOUR」(PR部門ではブロンズを獲得)のクライアントでもあり、今年のカンヌライオンズでは存在感を示しました。

DYSLEXIC THINKING

ブランド(クライアント):VIRGIN GROUP
エントリー会社/アイデアクリエーション、PR会社:FCB INFERNO(ロンドン)

Dyslexicは失読症の、という意味で、知的能力や基本的な知覚能力に問題がないにもかかわらず、読み書きに困難を示す学習障害を指します。人口の97%が失読症を否定的に見ているという調査結果があるそうですが、実際にはVIRGIN GROUP創設者のリチャード・ブランソン会長や、故人ではスティーブ・ジョブス、アルバート・アインシュタインなど、素晴らしい能力を発揮する人が大勢います。本施策では、失読症の人が持つ問題解決力などプラスの側面に焦点を当て、「失読症的思考(Dyslexic Thinking)」という言葉を開発。「失読症的思考」をLinkedInにスキルとして記載できるようにしました。また、オンライン辞書のDctionary.comに“Dyslexic Thinking”が「valuable and vital skill set(価値のある重要なスキルセット)」という定義で登録されました。ソーシャルメディア全体の論調を追跡すると、失読症についての肯定的な言及はキャンペーン前のレベルから1562%増加し、否定的な言及は4450%減少したということです。

本施策は、ネガティブな意味合いで使われていた言葉を、ポジティブな能力として再定義し、LinkedInという自身のジョブスキルをアピールする世界最大のプラットフォームでの公開を実現したことが、優れているポイントであり、またわれわれにも参考になるアプローチだと思います。

 

※記事で使われている画像、動画は、キャンペーン受賞者から使用許諾をとっております。