今年のカンヌライオンズ(以下、カンヌ)も6月23日に終了しましたが、こちらでは、私が審査員を務め、6月14日に結果発表が行われた「PR Awards Asia 2023」の話題をお送りします。

カンヌやそのアジアローカル版であるSpikes Asiaが広告賞のなかにPR部門があるのに対して、PR Awards AsiaはSABRE Awards Asia-Pacificとならんで、国際的なPR専門誌を発行する媒体社が主催するPR専門のアワードです。ちなみにPR Awards AsiaはHaymarket Media Group社(発行媒体「PR WEEK」等)、SABRE Awards Asia-PacificはPRovoke Media 社(発行媒体「PRovoke Media」等)が主催しています。私がPR Awards Asiaの審査員を務めるのは2018年に続いて2回目になります。

 

PR Awards Asiaの審査方法

PR Awards Asiaにはカンヌのように審査員の種類はありません。審査員は全部で48ある部門から複数のカテゴリーを割り当てられ(今回私は4部門)、1次審査ではオンラインでエントリーシートやケースフィルム(2分程度の紹介動画)などをチェックして採点します。採点期間は2週間で、審査対象は合計で50ちょっと(数点の重複あり)でした。カンヌの約290に比べるとだいぶ気が(審査も)楽です。一方で、カンヌと違いケースフィルムがないエントリーが多数派で、文字と画像だけで内容を理解せねばならず、英語がそれほど得意ではない人間にはハードルが高かったです。また、採点も総合点で1から9点までをつければよいカンヌに比べ、「目的と課題」、「ストラテジー」、「クリエイティビティとイノベーション」、「実行」、「有効性と結果」の5つの評価基準それぞれの点数を記入せねばならず、これが結構大変でした。

同じ部門を担当した審査員は全部で5名いて、その平均点をもとに上位からショートリストが作成されます。2次審査では、5名の審査員がオンライン会議でショートリストから各部門のゴールド、シルバー、ブロンズを決めていきます。応募の少ない部門では、ブロンズだけとか賞を出さないという決定も可能です。2次審査の最後に4つの部門のゴールドから最も上位のエントリーをキャンペーンオフザイヤー候補として選出します。
2次審査からしばらくすると3次審査があり、こちらは13のキャンペーンオフザイヤー候補の中から最も優れたエントリー一つにオンラインで投票を行います。審査員の役割はこれで終わりです。

なお5名の審査員のうち私以外の4名はアジア各国の事業会社のPR担当で、いわゆる代理店(PR Agency)の人間は私だけでした。事業会社の審査員は、キャンペーン以外の優れた代理店や個人を表彰する部門の審査も行うのですが、代理店の社員はそちらには呼ばれません。なお2018年は2次審査がオンラインではなくシンガポールに集合して対面で行われましたが、コロナ禍の影響なのか対面方式ではなくなったようです。今後どうなるかはわかりませんが、オンラインでも充分実施できるように思いました。

 

2023年受賞キャンペーンの紹介

私が審査したのはわずか4部門なので、全体の傾向を語れるほど見ていませんが、審査した50エントリーの印象は全体的にそんなにレベルが高くなかったかな、です。対象期間中はまだコロナの影響もあったと思われ、これって日常的によくやっている普通のPR活動だよね、というものが多かった感じです。その中でも受賞したキャンペーンはコアアイディアや実施過程、成果に光るものがありました。私が担当した部門では「Dove #LetHerGrow」(Fashion & Beauty部門ゴールド)、「THE61S: 61 Sizes 61 people」(同シルバー)、「Dove #StopTheNamecalling」(Integrated Marketing部門ゴールド)、「VIS – The Road Safety Collection」(同シルバー)、「Corona Extra Lime」(Best Creative Idea部門ゴールド)、「KFC Brainwave Bucket」(同シルバー、Best Event Activation部門ゴールド)などは1次審査の段階から面白いと感じていました。4部門での私のイチ推しは「Corona Extra Lime」だったのですが、審査員の協議では4部門中のベストには選ばれず、「Dove #LetHerGrow」が残りました。

各受賞エントリーの概要は以下のサイトでご覧ください。
https://prawardsasia.com/winners/

 

キャンペーンオフザイヤー「Pollution Capture Pencils」

インドの学校でこどもたちにポリューション・キャプチャー・ペンシルを配る教師(写真提供:Haleon)

 

高評価キャンペーンとして各審査員チームが選んだ13候補から投票で選ばれるグランプリ(キャンペーンオフザイヤー)には、英国のヘルスケア会社ヘイリーオンのインドの現地法人による、点鼻薬ブランド「オトリビン」の「Pollution Capture Pencils」が輝きました。

大気汚染問題が深刻なインドにおいて、小学校に空気清浄機を設置し、大気中からの収集物を黒鉛と組み合わせた芯で汚染捕獲鉛筆を作り、子供たちに配布。子供たちはこの鉛筆を使って親への公開書簡を書き、行動を起こして汚染と闘ってほしいというメッセージを送りました。また子供たちが汚染と戦うスーパーヒーローを描いた作品をNFTでオークションにかけ、その収益は、さらに多くの学校に汚染物質を収集する空気清浄機を設置するために使われる、というキャンペーンです。これまでに、20億立方メートル以上の空気を浄化した「汚染残留物」から1万本の鉛筆が作成されたとのことです。

ポリューション・キャプチャー・ペンシル(写真提供:Haleon)

 

単に空気清浄機を学校に寄付する、という話ではなく、汚染を鉛筆という形で可視化し、それを子供たちが使って親にメッセージを送る点や、NFTを使った収益化からのさらなる対象拡大など、拡散力のある話題づくりが非常に巧みで、持続性もあって社会的に価値が高いと思います。

インドの空気清浄機のおかれた学校(写真提供:Haleon)