企業広報戦略研究所(C.S.I.)では、「広報会議」にて「データで読み解く企業ブランディングの未来」と題し、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひもとく指南役として2020年7月より連載を開始しました。第14回(9月号)は、「従業員エンゲージメント」と「インターナルブランディング」をテーマに解説しています。

本トピックスでは、誌面に書ききれなかった「エンターナルな社内コミュニケーションとは?」と「ヤッホーブルーイング社の社内コミュニケーション術」の2点をご紹介します。

 


 

 

 

「エンターナル」な社内コミュニケーションとは?

「広報会議」掲載の記事でも触れていますが、弊社内のシンクタンクである企業広報戦略研究所が先日発表した調査(https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20210726.html)では、コロナ禍で勤め先への関心が低下したと回答した方が、回答者全体の約4割、自社に対してエンゲージメントが低い層に絞ると5割を超えるという実態が確認されました。

C.S.I.では、組織そのものの価値向上からコーポレートブランディングの強化を図るモデルを「インターナルブランディング®︎」と呼んでいます。企業に属する社員の意識調査・分析を基に提唱しているモデルですが、このモデルでは組織の価値を高めるには「ビジョン」の浸透が不可欠であり、そのためには「従業員エンゲージメント」の向上が重要だと捉えています。近年、コロナ禍を契機とした企業変革機運の高まりや、自律分散した働き方への変化などから、従業員エンゲージメント向上は経営課題として非常に注目度の高いテーマです。

同モデルでは従業員エンゲージメントに影響する3つの要素として「リレーション」「モチベーション」「ワーキングコンディション」を捉えています。”社員の関心が薄い問題”は健全なコミュニケーションが取れず「リレーション」が低下しやすい体質になっているということです。いうなれば、ビジョンという血潮が組織を巡りづらくなる、企業版 “冷え性”の危機です。

そこで組織の “血行促進”に効果的な「インターナル」コミュニケーションを実践するために「エンターテインメント」の視点を取り入れる考え方が、冒頭の見出しに書いた「エンターナル」です。エンターテインメントといえば、主に対顧客向けのコミュニケーション施策に取り入れられることが多いのではないかと思いますが、社員も一人の生活者。インターナルコミュニケーションにも活用し得る視点であるはずです。

例えば、粛々と行われがちの「内定式」を新興ニュースメディアとのタイアップイベントとして実施し、ビジネスインフルエンサーを交えたトーク番組として全社員にリアルタイム配信した例や、従来対面式で行ってきた社内イベントをe-sportsの大会に転換し、ゲームを通じて社内横断のコミュニケーションを促進している例もあります。

何をメッセージとして伝えるかは当然重要ですが、それ以前に振り向きたくなる呼び込み文句をどうキャッチーに設定するかや、ただ見せるだけではない「感情に触れる演出」も重要です。楽しませる、ワクワク・ドキドキさせるといった、エンタメならではの得意技を、それに生かせるのではないでしょうか。

 

ここで「エンターナル」を実践する上でポイントとなりそうな点を3つ、以下に挙げてみました。

①対外発信まで意識してみる

社外の一般生活者でも反応したくなるようなコンテンツ(イベントや動画・画像等)を考えてみましょう。そして社内に閉じず、実際に対外発信までつなげることができればベストです。社外の反響を社内に反射させることで、効果を増幅することができるでしょう。

 

②コンテンツプロバイダー/クリエイターと協業してみる

全てを内製化するのではなく、時にはエンタメ視点に明るいパートナー企業と協業することも良いかと思います。例えば日頃から視聴者を引き付けるコンテンツ制作に取り組んでいるメディア等のコンテンツプロバイダーと組むことなどが考えられます。

 

③ダイアログ型を取り入れてみる

例えばトップメッセージの発信の際、熱い思いをカメラに向かって語るメッセージビデオもいいのですが、それを番組風のトークセッションにしてみる、というのはどうでしょうか。第三者や現場社員を交えた対話型コンテンツにすることで、議論の中で熱量まで感じ取ってもらう、あるいはふとした脱線気味の話題も含めて楽しめる、といった効果が期待できそうです。

 

上記をご覧いただくと、周年事業や新ビジョン発表等、経営の節目に合わせた施策のようなイメージを持たれたかもしれません。そこでエンターテインメント=楽しむ視点を持ったコミュニケーションを日々の業務の中に取り入れているヤッホーブルーイング社の事例を最後に紹介したいと思います。同社の人事総務ユニット「ヤッホー盛り上げ隊」のディレクターである長岡知之さんに話を伺いました。

 

 

ヤッホーブルーイング社の社内コミュニケーション術

さまざまなクラフトビールブランドを展開する同社では、「チーム」で成果を最大化することを重視しています。そのためには活発な社内コミュニケーションが欠かせませんが、そのキードライバーとなるものが「自己開示」と「他者理解」の促進です。その考えの下、10年以上前からさまざまなインターナルコミュニケーション施策に取り組む同社の、ユニークかつ楽しい「インターナルコミュニケーション術3選」をご紹介します。

 

①全社共有される「アイスブレイク」

同社では社内打ち合わせのアジェンダにアイスブレイクが組み込まれているそうです。例えば、自己開示の助けとして「幼少期の恥ずかしい話」などのお題を設定し、業務に関係のないパーソナルな話で盛り上がりオープンに議論しやすい雰囲気を作ります。アイスブレイク自体は一般的かもしれませんが、同社のユニークなポイントは、Googleドキュメント上に残される議事録にアイスブレイクの内容まで詳細に記録され全社に共有される点です。コメント機能、メンション機能により、会議に参加していない社員からいいね!や “ツッコミ”が入ることも多いそうで、リモートワーク下でも社員同士が精神的な繋がりを作る助けになりそうです。

 

②シャッフル雑談朝礼

同社では10年以上前から他部署の社員とも相互理解を深めることを目的に、業務に関係ない話題で他部署の社員と雑談をする「雑談朝礼」を行っています。コロナ禍以前はオフィスで行う朝礼の一環として行っていましたが、コロナ禍本格化以降はオンライン化。普段の業務上のコミュニケーションはユニット(部署)の中に閉じがちであることから、ユニットを超えて人間関係をつくるために、あえてメンバーをシャッフルして実施しているそうです。自分のことを他の社員に話すことで、少し言いにくいことでも伝え建設的な相談ができる、といったような心理的安全性を高める効果もありそうです。

 

③ヤッホーの居間(社内ポータルサイト)

リモートワークが標準化して以降、社内の情報があふれアクセス性が悪化したことから、入社1年目のメンバーの発案からポータルサイトを一新。タイムカード機能や連絡掲示板、社長のVlogなど業務に欠かせないコンテンツだけでなく、社員が立ち上げた趣味コミュニティーの社内SNSや、有志が作成した番組ふう動画などエンタメ寄りのコンテンツもトップ画面からアクセスできるようにしたそうです。業務と人間関係の構築それぞれに必要な情報がバランスよく織り交ぜられ、アクセス性と回遊性の高いサイトになっています。

 

社内コミュニケーションを楽しいものにする。楽しいから社員も能動的に関わってくれる。非常にシンプルなことですが、このご時世だからこそ絶対に忘れてはいけない視点なのではないでしょうか。

 

 

 

執筆

高橋 洋平

PRプランナー・ディレクターとして通信業界や飲料業界など民間企業を中心に、マーケ
ティングからコーポレート領域まで幅広く支援。電通PRトレンド予測レポートの執筆も担当。

 

 

陳 妃史

企業広報戦略研究所 上席研究員として、インターナルブランディング®や魅力度ブランディング等の調査研究に携わり、モデルを活用したPR戦略提案・コンサルティングも行う

 

 


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