各国の政治・経済動向が相互に影響を与えるグローバル社会において、諸外国の政策を早期に把握する必要性が高まっています。

こうした背景を受け、当社は米国最大のアジア研究を専門としたシンクタンク「全米アジア研究所」(The National Bureau of Asian Research、以下NBR)と米国の対日経済政策の分析、対応・体制強化に関する協力関係を構築し、『ワシントン政策分析レポート』 を作成しております。

本レポートは、米国のアジア外交専門家と、電通PRのパブリックアフェアーズ専門家において7月にオンライン開催された経済政策ラウンドテーブル(円卓会議)に基づいております。

『米中混乱の時代~通商、サプライチェーン、そしてサイバーセキュリティ』と題した今回のレポートでは、バイデン政権における経済安全保障の強化、米国におけるサプライチェーン動向、関連する人権問題についてまとめております。

 

■エグゼクティブサマリー

“経済安全保障”強化を急ぐバイデン政権

日本で急速に必要性が問われている経済安全保障(経済政策を使って、相手国の外交政策を変える、自国の安全保障を守るという考え方)は、米国においても重要になってきている。トランプ時代は関税を対中戦略として活用してきたが、米国ではCFIUSや輸出管理などを使った政策はこれまでにも行ってきた。経済安全保障の強化については、バイデン政権ではかなり重点を置いており、米議会やシンクタンク、学会なども関心を持っている。中でも重要なテーマであるデータについては、敵性国家の脅威から米国のデータやサプライチェーンを守るため、関連する大統領令が6月9日に署名された。

サプライチェーンや人権問題などを巡り不透明な米中関係

バイデン政権は、大統領就任後の100日レビューのひとつとして、6月8日に250ページにわたるサプライチェーン報告書を発表した。サプライチェーンにおける中国切り離しと同盟国重視、政府調達の強化、国際貿易ルールの強化を行う方向性となっている。また、USTRがサプライチェーンの脆弱性を特定するための組織「ストライクフォース」を立ち上げるなど、体制を固める動きをしている。

人権外交を進めるバイデン大統領は、新疆ウイグル自治区において生産や調達などのサプライチェーンを保有や、投資をしている企業に対して、「米国法に違反する高いリスクを冒す可能性がある」とする文書を発表し、中国への圧力を強化している。

バイデン政権の競争力強化政策の財源は法人税増税

バイデン大統領は、6月24日に上院の超党派議員団と8年間で1.2兆ドル(約130兆円)規模のインフラ投資計画の策定で合意した。計画には、EVの充電施設整備や高速鉄道、再生可能エネルギー設備などが盛り込まれている。また、「米国イノベーション・競争法」に2500億ドルを支出するなど、次世代における米国の競争力強化に関する政策を着実に進めている。これらの投資には巨額の財源が必要となるが、まず、トランプ大統領が大幅減税した法人税(35%→21%)を引き上げるべく、国際的な法人税率を最低15%にするようG7、G20で提案し、大筋で合意された。また、GAFAなどへのデジタル課税についても強化する方針だが、共和党はもとより、民主党内の中道派が賛成しておらず、今後、調整の難航が予想される。