前回の審査員ブログから2年近くたってしまいました。

前回の「SABRE Awards Asia-Pacific 2020」に関するブログでは、「来年のSABRE Awards Asia-Pacific 2021授賞式は、なんと初めて日本(東京)で開催されることが決まっています」という締めで終わりましたが、結局コロナ禍が長引き、実現しませんでした。日本のPR界が盛り上がる機会だったのに、本当に残念です。

それでも少しずつ通常生活とコロナ感染対策との共存が進んでいます。本年私がPR部門のショートリスト審査員を務めた「カンヌライオンズ(正式名称:Cannes Lions International Festival of Creativity 2022)」は、3年ぶりにフランス・カンヌでリアルなイベントとして開催されました。私も初めて現地に行きましたが、多くの参加者で非常ににぎわっていました。

今回は、今年のPR部門の受賞作を中心にカンヌの報告をしていきます。初回は審査方法と評価の基準を、次回から受賞作を紹介します。

 

カンヌライオンズの審査方法

カンヌライオンズのアワードの審査員には、どの部門もショートリスト審査員と現地審査員の2種類があります。ショートリスト審査員は文字通り全体のエントリーから受賞候補を絞り込むショートリストをつくる人々、現地審査員はショートリストの中から、グランプリ、ゴールド、シルバー、ブロンズという各受賞作を話し合って決める人たちです(現地審査員はショートリスト審査も行う)。ショートリスト審査員は事前にオンラインで各応募作の確認から採点まで行います。

審査のステップや基準は、同じ主催者の「Spikes Asia」(カンヌライオンズのアジア・パシフィック地区版)とほぼ同じですが、カンヌよりエントリー数が少ない「Spikes Asia」ではショートリスト審査員と現地審査員の区別はなく、全審査員が両方を務めます。

写真:カンヌライオンズ2022PR部門でグランプリを受賞した「THE BREAKAWAY: THE FIRST ECYCLING TEAM FOR PRISONERS」の表彰式

 

今回のPR部門審査について

今年の世界各国からのPR部門ショートリスト審査員は33人(日本人は1人)、その中から現地審査員が10人でした。全体の応募数は約1500(重複エントリーあり)で、ショートリスト審査員は五つのグループに分けられて、それぞれ六つ程度のサブカテゴリーが割り当てられます。私の審査対象数は合計で290あり、これを通常の業務と並行して約2週間で採点するので、かなりハードワークです。しかも途中で予告なしにどんどん増えていく(最初は180ぐらいだった)ので、「えーまた来るの?」という感じできつかったです。とはいえ、最終的には応募数や審査数はほぼ平年並みだったようです。

審査員はエントリーシートとケースフィルム(応募作品の概要を約2分の動画にまとめたもの)を見て、1から9点で採点します。1から3点が「これはちょっとないよね」、4から6点が「見どころはあるのでショートリストに入れてもいいかも」、7から9点が「なんらかの賞をとってもいいんじゃないか」というのがだいたいの基準です。

審査基準は、以下の通りです。

 アイデア:20%
 ストラテジー:30%
 エグゼキューション:20%
 インパクトと結果:30%

ざっくりいうと、企画が50%、実施内容と結果が50%ということになります。審査員がつけた平均点で上位から約10%がショートリスト入りしますが、機械的に決めるのではなく、現地審査員が拾ったり、落としたりするケースもあります。現地審査員は、2日間の審査で、まずオンライン審査の点数をベースにショートリストを確定し、ブロンズ以上を決め、シルバー以上を決め、ゴールド以上を決め、最後にグランプリ1作品を決めていきます。各賞の作品数は全体の応募数に合わせて事務局から上限が与えられます。

 

今年の評価ポイント

まず、残念ながら日本からのエントリーはいずれもショートリストに入れませんでした。そもそも日本からのエントリーは、例年と比べても少なかったようです。

全体的な評価については、審査結果発表後に行われた審査員による講評セッション(デブリーフ)等の話をまとめると、以下のポイントが考慮されたようです。

  1. アーンドメディアの活用が話題化の中心にある
  2. 社会をよりよくすることに貢献している
  3. シリアスなテーマであっても、楽しめる表現が用いられている
  4. 小規模なターゲットであっても、ユニバーサルに通じるアイデアや実行方法が使われている
  5. 新しい技術(メタバースやARなど)が有効に取り入れられている
  6. 売り上げ貢献や寄付金の増加など、測定できる、分かりやすい結果が伴っている

写真:講評セッションのステージ。壇上左から3人目が審査員長のJudy John氏(エデルマン、グローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー)

カンヌライオンズでは、PRを含み全部で29部門もある中で、各部門の審査員が自部門ならではの評価軸を持つことに苦慮しており、特に上記1はPR部門としてのアイデンティティーだったと思います。ただ、ショートリストに残るような施策は、いずれもマスメディアやソーシャルメディアでも注目されていますので、それだけで差別化することはなかなか大変だったのでは?と推察しています。

またコロナ禍やウクライナ侵攻などの影響で世界全体が重苦しい雰囲気に包まれる中、3の表現の楽しさや、リアルな人的交流が難しい状況での5の活用が評価された受賞作もありました。