#表面的な多様性に覆い隠される問題

電通PRコンサルティングのZ世代社員が、ソーシャル・イノベーターとともにNEXT社会課題を発見し、企業連携で解決する方法を探っていく連載、「NEXT社会課題」。
今回は、社会と女子学生をつなぎ、女子学生の創造力やリーダーシップを育む場を提供するNPO法人ハナラボの大石真子さんへインタビュー。「社会をより良くしたい」という想いを持つ女子学生と、社会的インパクトのある活動を模索する企業とのコラボ事例についてご紹介いただき、大石さんが感じられているNEXT社会課題についてもお話しいただきました。

NPO法人ハナラボ:https://hanalabs.net/

【インタビュイープロフィール】
NPO法人ハナラボ
共同代表 大石真子さん
慶應義塾大学卒業。大学在学時、ハナラボの社会課題解決プロジェクトや学生記者としての活動を経験。卒業後は人材紹介会社で勤務する傍ら、ボランティアスタッフとしてハナラボに関わり続け、2021年より共同代表に就任。主にハナジョブ学生記者の育成、ハナラボコミュニティの企画運営を担当。キャリアコンサルタント(国家資格)保有。

 

 

学生時代に「自分の力を発揮できた経験」があると、
ジェンダーバイアスにとらわれない活躍につながる

■今日は、お仕事の後にお時間いただきありがとうございます。
最初に、NPO法人ハナラボについてお伺いしても良いでしょうか?

(大石さん)
NPO法人ハナラボは、誰もが社会変革の担い手として活躍することを目指し、その中でも特に女子学生の創造力やリーダーシップを育むために設立されました。
日本は、2022年版のジェンダーギャップ指数(社会や家庭などで男女の違いから生じている格差の度合いを比べる指数)が146カ国中116位。主要7カ国(G7)では最下位で、ジェンダーギャップの大きい国、つまり男女平等の実現において大きく出遅れている国です。国会議員や管理職といった、意思決定が求められる役職に就く女性が少ないことは、男女格差を生む社会構造がなかなか変わらない原因の一つです。

とはいえ、急に「今からリーダーシップを発揮して」「管理職として意思決定を」と言われても、多くの女性は気後れしてしまうのではないでしょうか。ハナラボで活動する女子学生も、団体の役職についた経験があっても「会長ではなく副会長」「リーダーではなく副リーダー」という子は多いですし、活動に参加はできても、「自分には創造性やリーダーシップなんてない」と話す学生がほとんどです。

ハナラボは、そんな女子学生に向けて、「力を伸ばす場や発揮する場さえあれば、自分の可能性に気付いて、社会で力を発揮したいと自然と感じられるようになるよ」と伝えたい。そこで、女子学生が自らの力を知って自分を肯定できる機会、社会を知り、社会と接点を持つ機会、そして社会に働きかけて力を発揮する機会を提供しています。

 

■個人的な話をすると、私は女子校で過ごした時間が長く、リーダーも女性の誰かが担う役割でした。
リーダー経験や、自分の力を認められる機会が学生時代にあると、社会に出ても前向きに機会をつかんでいけますよね。

(大石さん)
おっしゃるとおりです。私も、高校生のときにハナラボが運営するWebマガジン「ハナジョブ」の記事を見て、ハナラボでの活動を始めました。そこで、親や先生以外の大人に出会い、地域課題の解決に取り組むソーシャルデザインプロジェクトに参加することで、「自分にはこんな力があったんだ」と気付くことができたんです。その経験があったからこそ、大学生、社会人と、自分で自分に制限をかけずにいろいろとチャレンジできた気がします。実際に、ハナラボで活動した女子学生の中には、社内で新規事業や新部署を立ち上げたりと、しなやかに活躍している人が数多くいます。

私自身、実体験でそう感じたので卒業後もハナラボにはプロボノスタッフとして関わり続け、気付けば代表理事の一員になっていました(笑)。

 

 

社会変革を促す「ソーシャルデザインプロジェクト」で
女子学生の力を引き出しながら、企業や自治体の課題解決を目指す

■ハナラボがつくられている「女子学生の創造力やリーダーシップを育む機会」について具体的に教えていただけますか?

(大石さん)
具体的には三つのアプローチがあります。
 ①視野を広げる:女子学生のためのWebマガジン「ハナジョブ」
 ②可能性を引き出す:ソーシャルデザインプロジェクト
 ③成長を支える:社会人女性によるサポート(ハナラボチア)

①の「ハナジョブ」は、女子学生が新しい働き方、生き方、価値観に出会い、主体的にキャリアを選ぶきっかけになることを目指して運営しているWebマガジンです。特徴的なのは、学生記者スクールを経た学生記者が取材・執筆を担当していることです。

企業様や地方自治体様とは、②のソーシャルデザインプロジェクトでコラボさせていただくことが多いです。規模の大小を問わず、社会変革を促す「ソーシャルイノベーション」のためのデザインプロジェクトで、これまでも地域資源を生かした商品開発や、社会課題をテーマにしたアプリ開発などに取り組んできました。

③の「ハナラボチア」は、女子学生の応援をするメンター的存在。多彩な生き方を選ぶ社会人女性にご協力いただき、学生の悩みや疑問に答えたり、「やりたいこと」や「強み」を引き出すサポートをいただいています。

 

■女子学生の成長段階に合わせたアプローチが整っているんですね。
では、企業とのコラボ事例について具体例を挙げていただけますか?

(大石さん)
現在進行形(2022年10月現在)の事例としては、株式会社ツムラ(以下、ツムラ)が実施されている「#OneMoreChoiceプロジェクト」とのコラボワークショップが挙げられます。

https://www.tsumura.co.jp/newsroom/item/onemorechoice_220922.pdf

ツムラは、心身の不調を我慢して、いつも通りに仕事や家事を行うことを「隠れ我慢」と定義し、「女性の不調に、我慢に代わる選択肢(OneMoreChoice)を。」というメッセージとともに、隠れ我慢のない社会に向けた「#OneMoreChoiceプロジェクト」をスタートされています。そのプロジェクトの一環として行われている研修プログラム「#OneMoreChoice研修」をハナラボメンバーの女子学生が受講したことが、コラボワークショップのきっかけでした。
ワークショップのテーマは、「これからの社会を生きるわたしたちが、もっと健やかに生きていくために。女性の約8割が『隠れ我慢』をしている※ という問題に着目して、解決するアイデアを生み出す!」というものでした。デザインアプローチによる2日間のワークショップをハナラボが設計し、実施しています。

※ツムラ調べ

ツムラは「#Onemorechoiceプロジェクト」を若い世代に訴求し、若い頃からライフステージ、ライフプランニングの観点を持って考えていくことの重要性を伝えたいという想いをお持ちでした。同時に、他主体と連携することで、プロジェクトの面的広がりや社会的インパクトを意識されていたことから、ハナラボとのコラボが実現しました。

 

■Z世代の女性は、女性ならではの健康課題に関心が高い印象があるので、素晴らしいコラボレーションになったのではと想像します。ワークショップは、どのように進めていかれました?

(大石さん)
1日目は、ペアインタビューで「隠れ我慢」に対してのインサイト(本人さえも気付いていない動機や本音)を発見し、2日目実施までの間に周囲の方へインタビューを行い、インサイトをアップデートしました。2日目は、インサイトに基づいたアイディエーションを行い、さまざまなアイデアを出し合って精査していきました。

 

 

「社会をより良く変えたい」という熱い想いを持つ企業や自治体と共に
女子学生の自信につながる成長機会をつくりたい

■これまで協業された企業や自治体からは、コラボ後どのようなお声が届いていますか?

(大石さん)
部署内で考えていただけではおそらく出なかったであろう斬新なアイデア、異なる視点からの意見が挙がり、「プロジェクトやサービスをよりよく変えていくきっかけをもらえた」と喜ばれています。
アイディエーションの鍵は、インサイトを見つけ出すためのインタビューです。私も、学生時代にさまざまな方にインタビューをさせていただきましたが、社会人経験がないせいもあって、お話すべてが新鮮で、聴き入ってしまうことばかりでした。そうすると、インタビューを受けてくださる方も「真剣に話を聴いてくれる」と心を開き、普段はお話にならないことまで詳しく教えてくださったり、答えのない問いに一緒に向き合ってくださったりしました。女子学生の感受性はリアルな声を拾い上げる力となり、多くのプロジェクトの助けになると感じます。

また、プラスアルファの効果ですが、コラボワークショップに参加した女子学生が、企業や自治体のファンになることは多いんです。企業や自治体で働くみなさんが、熱を持ってプロジェクトの推進やサービスの改善に向かっている姿に共感し、ついにはコラボ先の企業に就職を決めたという学生もいました。企業側も、学生がリーダーシップを発揮している場面を見ているので、お互いうれしいマッチですね。

 

■思わぬインサイトが浮かんできたとしたら、企業や自治体の活動の大きなヒントになりそうですね。
では、ハナラボが企業や自治体とコラボする上で欠かせないポイントはありますか?

(大石さん)
ハナラボの根幹にある「女子学生の創造力やリーダーシップを育む機会をつくる」という意識を、企業様や自治体様と共有したいという想いは、強く持っています。もしかしたら、企業様や自治体様の期待を超えるようなアイデアを、学生側が出せないかもしれない。それでも、学生が、これまで知らなかった世界に触れ合えたり、学生自身が力を試せたと感じる機会を生み出すことに価値を感じていただける企業様、自治体様とコラボさせていただけたら本当にありがたいです。

 

■ハナラボとして、今後コラボレーションしたい企業や自治体はありますか?

(大石さん)
先ほどのお話にも出ましたが、女子学生の関心が、女性の健康課題やフェムテック、身近な環境課題に向けられていることは感じます。ただ、業種や地域にこだわらず、「社会のために何かいいことをしたい」「日本、世界をこんな風に変えていきたい」と想いを持っている方々と協業したいです。ハナラボには、「社会変革をしたい」とまでは思わなくても、「社会のために何かいいことをしたい」と思う女子学生はたくさんいます。熱い想いを持つ企業様や自治体様とのコラボでは、熱心に活動してくれています。

 

 

今あるジェンダーギャップを「多様性」という言葉で覆い隠してはいけない。
誰もが尊重され、自信を持って歩める社会へ

■大石さんが活動される中で感じている「NEXT社会課題」はどんなものでしょうか。

(大石さん)
今、個人的に感じているのは「#表面的な多様性に覆い隠される問題」です。

一例を挙げると、ハナラボと同様に、女子学生のエンパワーメントを目指して活動している団体がアメリカにあるのですが、「エンパワーメントする対象が女子学生だけでいいのか」という声が届いているそうです。「多様性の重視が求められる社会にあって、女子学生だけ優先しているのはどうなんだ」という意見です。

もちろん、多様な、すべての人の創造力やリーダーシップを育む機会を生み出すことが前提です。しかし、ジェンダーギャップが大きい現在の日本で、女子学生が自信を持って活動できる場面はまだまだ限られていますし、世の中から求められる「女性らしさ」にどこかで縛られている女子学生はたくさんいます。
社会に出て、リーダーシップを発揮できる場面に出会ったとき、「自分にもできるかも」と一歩踏み出せる女子学生を育むハナラボの活動は、この先もしばらくの間必要とされるのではないかと思っています。

 

■確かに、「多様性」や「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」という言葉は、この数年で社会に浸透してきました。
 でも、言葉だけが独り歩きしているケースもあるのではと、私も感じることがあります。

(大石さん)
「多様性を重視する」という言葉をマジョリティ側が都合よく使うと、社会課題の多くを覆い隠してしまいます。「多様性の重視」というスローガンを掲げることだけに注力して、現状を無視すると、男女間格差、世代間格差、地域格差はなかなか埋まらず、マイノリティの存在が見えづらくなってしまうのではないでしょうか。
一方で、ジェンダーギャップの解消はもちろん重要ですが、「女性」として一括りにするのではなく、一人ひとりの経験や課題を丁寧に見ることが必要です。性別に限らず、カテゴライズすることは多様性を覆い隠すことにつながりますよね。ハナラボでは、女子学生を対象としていますが、「女子学生」というカテゴリに当てはめるのではなく、一人ひとりの考え方や生き方を大切にしています。

微力かもしれませんが、ハナラボは、誰もが違いを含めて尊重され、自分らしく力を発揮できる社会を目指したい。そのためにも、女子学生が自分の可能性に気付き、自信を持って歩んでいくためのサポートを続けていきます。
そして、そのような想いに共感いただける企業の皆様とのコラボを、今後も続けていきたいです。

 

 

■編集後記
私は女子校歴が長く、「リーダーを女性が担う」ことに対して違和感を覚えずに社会人になりました。
しかし、データを見てみるとジェンダーギャップ指数は146カ国中116位。また、管理職の割合なども世界平均を下回っているという数値が出ています。このような状況において、「女子学生の創造力やリーダーシップを育む機会をつくる」という想いで活動しているハナラボさんの存在に、自信をもらっている女子学生も多いのではないでしょうか。
すべての人に対して、リーダーシップを育む機会が与えられることは前提ですが、誰もが自分が本当に望む生き方を選べてこそ、本当に多様性が重視されている社会と言えるでしょう。そういった社会を実現していくために企業は何ができるのか、SXCとして今後も考え続けていきたいと思います。
NPOをはじめとする外部パートナーとの連携に関するご相談は、電通PRコンサルティング「サステナブル・トランスフォーメーションセンター」まで。
【お問い合わせ】sx-center@group.dentsuprc.co.jp

 

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