電通PRコンサルティングのZ世代社員が、ソーシャル・イノベーターとともにNEXT社会課題を発見し、企業連携で解決する方法を探っていく連載、「NEXT社会課題」。
今回は、首都圏中心に21カ所で児童のアフタースクールを開校し、企業と協働した出張授業も行っている放課後NPOアフタースクールの平岩国泰代表理事にインタビューを行いました。
数多くの企業連携を行ってきた放課後NPOアフタースクールが考える、企業とNPOが協働する意味。そして企業との連携だけでなく、ゆくゆくは企業同士の連携をしていきたいという平岩さんの考える理想の未来を語っていただきました。
特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクール:https://npoafterschool.org/


 

子どもの事件の多くは放課後に発生、無くなりつつある「放課後」に布石を打つ。

インタビューの出発点は放課後NPOアフタースクールの立ち上げについて。時代の変化とともに無くなってきた放課後を取り戻すべく活動する放課後NPOアフタースクールの取り組みについて伺った。

■ NPOを立ち上げるきっかけについて教えてください。

(平岩代表:以下、平岩さん)
放課後NPOアフタースクール(以後、放課後NPO)を立ち上げたのは2004年、子どもの連れ去り事件が多発していた年です。事件の多くは下校中に起きていて、調べていくうちに、いろんな事情が積み重なって「放課後」が無くなくなりつつあることが分かりました。自分の子ども時代には「放課後」があって、子どもが主体の遊びや学びがあった。「昔はよかった」ではなく、いまの社会に沿った放課後があるといいなと思い、活動を始めました。

特に入学シーズンである今の時期は、親子共に「小一の壁」問題に直面していますね。小学校の学童不足など、放課後の過ごし方が主な原因と考えられています。保護者が共働きで学校が終わった子どもを見られないため、塾や習い事などの予定を入れるようになる。そうすると当然お金がかかるので、経済格差が体験格差になってきているのが現状です。

■ 確かに時代とともに放課後の在り方が変わってきている気がしますね。そういった課題を持つ中で、現在はどのような取り組みをされているんですか?

(平岩さん)
活動の軸は二つあります。一つは「アフタースクール」。文字通り放課後の学校で、1都3県を中心に21校つくりました。学校の施設を活用し、毎日開校、市民先生も参加しさまざまな遊びや学びを行っています。学童保育とは違い保護者の就業状況にかかわらず、どの子も参加できます。

もう一つは「ソーシャルデザイン」。こちらは企業と協働しながら、企業の特色や事業を生かした教育プログラムを作り上げていくものです。

「アフタースクール」ではこれまでにのべ100万人分もの試行錯誤があり、そこで得た気づきや知見は「ソーシャルデザイン」の企画に生かされています。「ソーシャルデザイン」では企業の持っている資金・技術・社員さんなどを生かした出張授業を行い、全国の子どもたちに体験活動を届けています。

 

強みの重なり合いで「ソーシャルデザイン」は強くなる

企業の力を生かして社会をより良くデザインしていく、放課後NPOの「ソーシャルデザイン」。平岩さんは「重要となるのは企業のパーパスです」と断言した。

■ 企業の持つさまざまな強みと放課後NPOさんのノウハウで「ソーシャルデザイン」が成り立っているんですね。ソーシャルデザインにはどのような事例がありますか?

(平岩さん)
例えば、ソニーグループ株式会社(以下、ソニー)の国内における子どもの「教育格差」という社会課題の解決に向けた取り組みである「感動体験プログラム」です。同社には「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパス(存在意義)があり、これがわれわれの「感動体験が少ない子どもの自己肯定感の低さ」という課題と合致しました。

こちらの写真を見てください。

どの子もとても良い表情ですよね。ソニーの「Warp Square(ワープスクエア)」という超短焦点4Kプロジェクターで映像を四方に投影し、VR空間を作り出し、技術を使い、360度の没入感あふれる世界各地の映像を見ている様子です。この表情が見られたとき、まさに「感動」を届けられたなと嬉しくなりました。

我々には、子どもの活動をデザインしたり、それを実際に運営したりする力があります。一方で、どの企業も独自の資源や技術、熱い思いを持った社員さん等、沢山の強みを持っています。両者の強みが重なり合う所に、「子どもの教育」の可能性が眠っているはずです。

その時に大事になってくるのが企業のパーパス。企業のパーパスや理念、創業の魂などを聞くことで、より良いプログラムになっていきます。ソニーのような明確なパーパスがなくても、その企業らしいテーマの教育活動は100%つくれる自信があります。

また、熱い思いを持つ社員の方から始まることが多いです。これを読んでいただく企業の方で、子どもの教育に思いがある人はぜひご連絡ください!笑

 

NEXT社会課題は「超少子化」と「子どもの幸福度」

子どもが幸せを感じられないという事実に目を向けている日本人はどれだけいるのだろうか。長年言われ続けてきている「超少子化」は言わずもがな、子どもの放課後問題に切り込むイノベーターである平岩さんは、その先に存在する「子どもの幸福」問題に警鐘を鳴らした。

■ 平岩さんの考える「NEXT課題」について、ずばり教えてください。

(平岩さん)
超少子化子どもの幸福です。

まず、日本の大きな社会課題は「少子化」ですね。今の日本は、次世代を生み育てる子育て世代が孤立しています。子どもを取り巻く環境・学校・地域・家庭が分断されて、「孤育て」せざるを得ない状況です。

企業には、「次世代」を生み育てることにもっと目を向けてほしいです。「わが社も何かSDGsをやらなくては」という相談を受けますが、「子どもや若者をステークホルダーに加え、ぜひ次世代支援をやりましょう!」と答えています。SDGsとは、「現世代と次世代の幸せを両立させること」だと私は思っています。

2100年には日本の人口は6000万人台に減って、しかも高齢者が大部分だとすると、日本のビジネス規模は単純に半分以下になります。顧客になる次世代がいないのに、企業の持続可能性だけを先に考えても仕方がないですよね。

もう一つは「子どもの幸福」です。

ユニセフの調査によると日本は他国に比べて、子どもの幸福度が低く(38カ国中20位)、その要因は精神的幸福度が低い(38カ国中37位)というショッキングな調査データがあります。子どもが幸せを感じられず、10代の死因の1位が自殺である悲しい事実をもっと真剣に受け止めなければいけません。ここ数年で、Well-beingについては語られているのに、子どもの幸福は置いてきぼりで話されているように感じます。

現在、多くの学校は、大人が決めた過ごし方に子どもが従うことがベースであるため、自己肯定感のアップに寄与するのは難しい状況です。逆に、「こうありたい」「やってみたい」と言った子どもの「好き」がベースになるのが放課後の時間です。子どもが主体になれる場所が存在することで自己肯定感が作られていきます。だからこそ放課後は絶対に必要なんです。

■ お話を聞けば聞くほど、「ソーシャルデザイン」の拡大が重要な気がします。

(平岩さん)
その通りです。

今まで実施した一回一回の企業との協働プログラムでの手応えは確かに感じていますが、この数年間で日本の子どもの自己肯定感に関して改善が見られるかと言われると、われわれの力不足を感じています。そのために、一緒に社会的インパクトをつくって企業さんともっと協働していきたいです。「日本全体で次世代を応援する!」、そんな社会をデザインしたくて「ソーシャルデザイン」と名乗っています。

今は勉強会を開催して興味のある企業に来ていただき、その後オファーのあった企業とコラボしていくという流れです。われわれには個々の企業に営業をかけたり、影響力のあるメディアに大きな広告を出したりするパワーがありません。また、われわれも含めてNPOは目先の仕事を一生懸命コツコツやるのは得意だけど、企業やメディアの力を借りたり、一つの活動を大きな枠組みにしていったりといったことを苦手としています。

企業の発信力にはとても期待をしているし、そのために「一緒にやろう!」と言ってくれるパートナー企業や、アフタースクールの活動を全国で展開してくれるNPOがたくさん現れ、もっと大きな枠組みにできるならノウハウをお渡ししていきたいです。そのように社会的インパクトを拡大できるのが営利企業と違うNPOの強みだと思っています。

 

企業連携の先に見据える「企業同士の連携」、鍵となるモーメントは「世界こどもの日」

■ 「ソーシャルデザイン」でさまざまな企業と協働している放課後NPOさんですが、企業との連携での注意点や、注目している社会的なモーメントはありますか?

(平岩さん)
まず前提としたいのは「質重視」ということです。企業はどうしても量や効率を追求しがちです。でも実際に教室を見てもらうと、子ども一人一人の真剣な質問を聞いて答えることの大切さが分かると思います。その上で、一つの枠組みを1社ではなく、より多くの企業に加わってもらいたいです。普段はライバル関係にある企業同士でも日本の子どもたちのためなら!と手を取り合ったら素敵だな、と思います。私は、社会課題を突き詰めると最後は教育にたどり着くと思っています。そして、誰もが共感できて願いたいテーマが「子どもの幸福」だと信じています。

モーメントとしては、まだ知名度は低いですが、毎年11月20日の「世界こどもの日」という日があり、われわれは「超アフタースクール」というフェスを毎年開催しています。そこで保護者の方々が勇気づけられたり、それを見た子どもがインスパイアされたりするような番組やイベントができたらと思いますし、放課後NPOと企業との連携だけではなく、企業同士の連携が生まれる一つのきっかけになっていってほしいです。

1回だけだったプログラムが全国で何十回もできたり、フェスを開催したり、共同で新聞広告を出したりすることで、社会的なインパクトが生まれ、社会全体が子どもに優しくなるように進化していけるはずです。是非、ますます思いのある企業と連携して社会を進化させていきたいです。

 

編集後記

この連載の聞き手は、社会課題への関心が高い電通PRコンサルティングのZ世代社員・横川愛未。次世代を担う若者を代表し、さまざまなソーシャル・イノベーターの方と「NEXT社会課題」をテーマに対話し、これからの企業が行うべき具体的なアクションを探っていく予定です。

今回のNEXT社会課題は「超少子化」と「子どもの幸福」。一見企業とは関連性の薄いテーマだと思われがちですが、“未来のステークホルダー“という視点で見たとき、企業が動くべきアクションは「次世代育成」であると改めて実感しました。そういった中で、ソーシャル・イノベーターと企業と共にムーブメントを起こし、社会にインパクトを生み出していける良いタイミングだと思いましたし、そういったアクションを企業やソーシャル・イノベーターと一緒に作っていきたいと強く感じました。

今回お話しを伺った平岩さんのような、社会課題に切り込んでいくソーシャル・イノベーターとともに、アクションを起こしていける企業こそが持続的な企業価値創造ができます。それこそが、我々が推進する「サステナビリティ・ブランディング」です。

NPOをはじめとする外部パートナーとの連携に関するご相談は、電通PRコンサルティング「サステナブル・トランスフォーメーションセンター」まで。

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