#マネタイズしやすい社会課題に行きがち問題
#社会課題解決を目的化しすぎ問題
電通PRコンサルティングのZ世代社員が、ソーシャル・イノベーターと共にNEXT社会課題を発見し、企業連携で解決する方法を探っていく連載、「NEXT社会課題」。
今回は、2011年の団発足以来「働く人と社会課題の現場をつなぐ活動」を通じ、国内外の社会課題解決の加速と企業のリーダー育成に取り組まれてきた、NPO法人クロスフィールズの小沼大地 代表理事にお話を伺いました。
SDGsに取り組んでいるようで実態が伴わない「SDGsウォッシュ」が問題視されるなど、社会課題解決に取り組む企業の姿勢が問われています。そんな中、社会課題の現場に立つNPOと企業、それぞれの立場に寄りそってきたクロスフィールズが見つめる「NEXT社会課題」とはどんなものか、そして、今後つくっていきたい「社会課題解決につながる仕組み」についてなど、幅広く語っていただきました。
特定非営利活動法人クロスフィールズ:https://crossfields.jp/
心地よい場所を飛び越えた先の「社会課題の現場」での経験が、
課題解決に向けてアクションを起こす人材を育てる
■まず、クロスフィールズの活動内容について教えてください。
(小沼大地代表理事:以下、小沼さん)
企業・行政・NPOといったセクターの枠、国境や価値観、既成概念といったあらゆる領域(Field)を飛び越える経験が、よりよい明日の世界を創っていくという信念から、2011年にクロスフィールズを立ち上げました。団体発足以来、企業や行政といったリソース(ビジネススキルや資金)あふれる場所と、NPOやソーシャルベンチャーが活動する国内外の「社会課題の現場」との橋渡しを続けています。
■ありがとうございます。具体的なプログラムについてもお聞かせいただけますか?
(小沼さん)
派遣元企業から国内外のNPOやソーシャルベンチャーに飛び込み、本業のスキルと経験を生かして社会課題の解決に挑む「留職プログラム」、国内外の社会課題の現場を「体感」するとともに、困難な課題に立ち向かうリーダーの活動と志から刺激を受ける管理職・役職者向けのプログラム「社会課題体感フィールドスタディ」などを中心に実施してきました。
一例として、2014年から「留職プログラム」を導入し、組織そのものを変革する人材の核をつくる機会と位置づけてくださっているハウス食品様の事例をご紹介します。
2021年5月から2022年2月まで、ハウス食品の研究職として働く社員の方が、株式会社マザーハウスへ留職されました。「食」をテーマとした事業を行う、リトルマザーハウス(以下、LMH)のチームに派遣となり、メンバーの想いを起点に生チョコレートの開発・製造プロジェクトを始めたんです。研究職の枠を超え、チームで商品のコンセプト決めやパッケージデザインといった未知の領域にも取り組んだりLMHメンバーの熱意に触れる中で、「今後は食を通じて環境問題に取り組みたい」という志を得たんです。
留職者とLMHチームのみなさん
私たちも、想像以上に長く続くコロナ禍で、大きな影響を受けました。新興国を中心とした、海外の「社会課題の現場」へ赴くことが難しくなったためです。この2年間、「留職プログラム」は国内で、「社会課題体感フィールドスタディ」はオンラインへと切り替えて実施しています。その他、VRなどのテクノロジーを活用した「共感VRワークショップ」といった新規事業への取り組みもスタートしました。2022年後半からは、ようやく留職の新興国派遣や現地訪問型のフィールドスタディが再開したり、チームも気合が入っています。
社会課題と企業の距離が近づいた今だからこそ、
NPOと企業をつなぎ直し、芯を食った社会課題解決を進めたい
■私も「社会課題体感フィールドスタディ」に参加したいと上司に伝えてみます(笑)!
では、小沼さんがクロスフィールズを立ち上げられた経緯については、いかがですか?
(小沼さん)
社会課題の現場に深く入りこむ組織(NPO)と、ビジネススキルを持つ組織(企業)、この二つをつなげたら面白いことが起きるはずだと直感したことが、立ち上げのきっかけです。そう感じたのは、自身が青年海外協力隊としてシリアの農村部へ派遣されたときでした。
当時は、マイクロファイナンスで農村の小さなビジネスを育てるというプロジェクトに携わっていたのですが、途中からドイツ人の経営コンサルタントが参画し、マイクロファイナンスの事業を変革している姿を目の当たりにしたんです。ビジネススキルが、社会課題の現場をよりよく変える可能性を体感しました。加えて、社会課題が解決される現場に入り込むことで、より熱量高くいきいきと働くコンサルタントの姿も印象的でした。
「ソーシャルとビジネスを融合させることで社会課題を解決したい」。そんな思いから、協力隊での活動終了後、コンサルティング会社で経験を積み、クロスフィールズ発足に至りました。当時、「社会課題解決」を経営の中心に掲げるような企業は多くありませんでしたが、今後、社会課題と企業の距離は近づくはずだという予感はありました。
■まさに、小沼さんが想定された通り、社会課題と企業の距離は縮まり、「社会課題解決」をビジョンとして掲げる企業も増えましたね。
(小沼さん)
そうですね。一方、SDGsがファッションのように世間に浸透し、カラフルなバッジをつけているだけで「なんかいいことしてる」という気になってしまったり、実態が伴わない「課題解決活動」が増え、社会課題の多くが放置されていることも事実です。SDGsが企業の思考停止を促している現状には危機感を覚えると同時に、本質を捉えた活動を増やしていけるチャンスだとも感じています。企業には、経済合理性限界曲線を超える活動をしてみてほしいです。
日本の企業は成功事例がないと動きづらく、失敗したくないという気持ちを強く持つ傾向にあります。その性質をポジティブに捉えれば、オセロの石が1枚ひっくり返ると一気にムーブメントが起こる。クロスフィールズは、芯を食った社会課題解決をサポートし、石を続々とひっくり返す力になりたい。そんな想いで10周年を機にリブランディングを決心し、「社会課題が解決され続ける世界」という新ビジョンを掲げました。
難しいし、儲からないかもしれない。
そんな社会課題へ腰を据えて向き合う企業が増えたら社会は変わる
■小沼さんが今感じていらっしゃる「NEXT社会課題」についてもぜひ教えてください!
(小沼さん)
今後、こうなったらいいなという願いも込めてなんですが、「今は儲からないけど、解決できたらインパクトのある社会課題」に挑戦する企業が増えてほしいという想いがあります。今、経営において外すことができない観点である「ESG(環境・社会・ガバナンス)」も、現状はほぼ「脱炭素」といった環境(Environment)への投資に限られ、SやGは抜けがちなように感じます。経済合理性は企業活動としてもちろん重要ですが、テクノロジーの活用や業界への働きかけを惜しまないことで、社会をよりよく変えながら儲かる社会課題、ブルーオーシャンに飛び込んで課題を解決し、挑戦できる社会課題の領域を広げられるはずです。
NPOは、社会課題の解決を第一義に掲げ、儲かる・儲からないといった経済合理性を超えて活動することができる、企業とは異なる特徴を持つ組織形態です。だからこそクロスフィールズは、多様な課題に向かうNPOとリソースを持つ企業との橋渡しを10年続けてきた経験があります。多様なNPOと企業をつなぎ、ブルーオーシャンへ飛び込む企業を応援できます。
また、クロスフィールズのプログラムでは、企業人に「経済合理性限界曲線」を超えた先進的な海外事例を体感してもらうことに力を入れています。2022年からは新興国での留職プログラムや社会課題体感フィールドスタディも再開するので、日本でイノベーティブな課題解決をするにはどうしたらいいかと考えるきっかけをつかんでいただけると思います。
■たしかに、ブルーオーシャンでの社会課題を目指すにも、どこに、どんな社会課題があるのか分からない企業にとって、現場とをつなぐ橋渡しの存在があることは頼りになりますね。では、他に感じておられる「NEXT社会課題」はありますか?
(小沼さん)
実は、「社会課題解決をせねば!」と意気込むより、人と人、地域と人がつながって人々の『社会参画』を進める方が、回り道のようでよいアプローチになると最近は感じているんです。一つの社会課題だけに注目するのではなく、社会の在り方自体を見直し、人と人、人と地域のつながりを大切にすること、そして一人ひとりが社会に参画し、自分でアクションすることが結果的に社会課題の解決につながるのではと思います。
こちらの連載でお話しされていた、放課後NPOアフタースクールの平岩(国泰)さんたちは「すべての子どもたちに安全で豊かな放課後を届ける」ことに挑戦されていますが、この活動に参加する地域の人々は「地域の防犯」という社会課題の解決を目的に参加しているわけではないと思います。ただ、地域での活動が楽しいから参加して、その活動が結果的に防犯対策になり、幸せな社会につながっているんだと思います。
NPOの活動は、社会課題を解決するとともに、人々のWell-beingの増幅につながっているんです。企業がNPOと共に動きだすことは、企業で働く人たちが自然で幸せなあり方で課題解決を行うことにもつながっていくはずです。
社会課題の自分事化を加速させる
「個人のトランスフォーメーション」を促す仕組みをつくる
■本当にそうですね。社会課題と一言で言ってもいろいろな問題が絡み合っているので、一人ひとりが課題を自分事化し、動きだせるようになることが、課題解決の早道なのかもしれません。
(小沼さん)
まさに、社会課題を自分事と捉えて動ける人になること、大げさに言えば「個人のトランスフォーメーション」こそが、社会課題解決を加速させるはずです。クロスフィールズは個人の変容を促すことで、最終的には社会課題解決が進む「社会の仕組み」をつくりたいと思っています。
その仕組みづくりの活動のひとつが「社会課題体感フィールドスタディ」です。企業の役職者が当事者の顔が見えるまで社会課題の現場に近づいて、N=1の課題まで深掘りし、当事者の抱える課題を自分事化していきます。参加した方々は社会課題への当事者意識を高めるだけでなく、そこで感じたことを周囲にも伝播します。この取り組みにはかなりの手応えを感じているので、今後も積極的に続けていきたいです。
また、2,000人を超える「留職プログラム」や「社会課題体感フィールドスタディ」の経験者が、どのように社内で奮闘しているかも追いかけていきたいですね。社会課題の現場に立った経験者個人の生きざまに注目して発信することで、企業が掲げるパーパスへの社員のエンゲージメントや納得感も高まっていくと考えています。
もう一つは、社会課題の自分事化につながるeラーニングの開発です。これまで続けてきた「留職プログラム」や「社会課題体感フィールドスタディ」を通して、「社会課題を自分事化するプロセス(U理論)」が科学的に見え、モジュール化できる感覚が出てきました。e-ラーニングは多くの方にこの経験を届ける手段になりうると思っていて、社会課題を自分事と捉えられる方を増やし、人々の社会参画を促す一助になれたらと考えています。企業の階層別研修や新人研修に取り入れてもらうことで、より多くの人に社会課題を自分事化する機会を届けていきたいです。
■編集後記
社会課題とビジネスを越境させることの重要性に気が付き、クロスフィールズを発足させた小沼さん。今回お話を伺い、われわれが行う企業と社会をつなげていくパブリックリレーションズとの親和性の高さを感じました。
社会課題の解決につながる「化学反応」を企業内で起こすには、企業のパーパスと個人のパーパスがつながることも重要です。そのためには、社会課題の現場にできるだけ近づき、参加者が各自内省することが、企業と個人のパーパスがリンクする有力な手段になっていきます。
また、「2000名を超える経験者たちに焦点を当てて発信を行うことで、企業が掲げるパーパスへの納得感も高めていける」といったお話しにもあったように、N=1に注目しつつストーリー作りを行っていくことが、サステナビリティをビジネスで加速させるようなトランスフォーメーションをのではないでしょうか。実態が伴わない課題解決活動でウォッシュとして糾弾されないために、課題をアイコンと捉えず、個に注目した一貫性のあるストーリー作りが今後重要になってくると感じます。
NPOをはじめとする外部パートナーとの連携に関するご相談は、
電通PRコンサルティング「サステナブル・トランスフォーメーションセンター」まで。
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