“食生活の省エネ”実現のための調査・広報プロジェクト
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    官公庁・その他団体

省エネは、我慢、面倒くさい、古くさい?

省エネルギーが重要視されるようになって久しい。国民の間でも、資源枯渇や地球温暖化問題などへの関心は高まり、
省エネルギー施策が受け入れられる素地は醸成されているように思える。そして、これまでも国民に対してさまざまな提案や啓発活動が行われてきた。

 

しかし、現実にはわが国の民生用エネルギーの消費量は一貫して増え続けている。
これは、従来提案されてきた省エネルギー方策が、国民の実践に結びついていないことを意味している。

 

その原因としては、従来の提案がなんらかの「我慢」を強いて生活水準を低下させるというイメージがあったこと、
提案される施策が現代のライフスタイルとかけ離れた「面倒くさい」ものとなってしまい、現実味を帯びていなかったこと、などが考えられる。

調査・広報プロジェクト成功のポイント

このプロジェクトは、こうしたことを背景に、以下2つの基本的なスタンスを設定し、1999年秋にスタートさせた。

 

●生活の質を落とさない省エネルギー

●日々の生活のなかで無理なく実践できる

 

そして、2001年春には(財)日本パブリックリレーションズ協会主催の「PRアワードグランプリ」優秀賞を、

プロジェクトの実施主体である(財)省エネルギーセンターとともに受賞することができた。

 

そのPR活動の成功のポイントは、次の3点に集約できる。

1.生活者の関心をひくテーマ設定

2.徹底的なデータ収集と分析

3.新鮮な切り口と親しみやすい表現方法で提案

身近なテーマ設定 省エネのためのきっかけ作り

エネルギーは、まず何より、関心を持ってもらうところから始まる。
「すべての場面で省エネを」と総花的に提案するだけでは「やってみよう」という実践意欲を喚起できない。
そこで省エネライフへの入り口として、誰もが関わり、話題にしやすい「食生活」という身近なテーマを設定した。

 

また、プロジェクト内で実施したアンケート調査では、
実に9割以上の人が「食生活の省エネに取り組んでいきたい」と答えているものの、その一方で8割の人が「簡単にできることがあれば」という条件をつけている。

 

インタビュー調査でも「あれもこれもと言われても、どれがどれだけの効果があるのかわかりにくい。
優先順位を示す情報がほしい」という指摘があった。そこで、負担が少なく実践しやすいもので、かつ効果の高いものを、
より具体的に提案するために、食生活の実態を徹底的に調べるところからプロジェクトをスタートさせた。

食生活を徹底的に調べる

変化の激しい現代の食生活を捉えるために、文献調査、日記形式のアンケート調査、ビデオインタビュー調査など、
多面的な情報収集活動を行った日記形式のアンケート調査は、首都40km圏内に居住する612世帯を対象に実施した。

 

ひとり暮らし、子どもの有無、高齢者の有無など、ライフスタイルの異なる家庭に「省エネルギーに関する意識と実行度」を聞くとともに、
一緒に住んでいる家族全員の4日間(平日2日間と土日2日間)の具体的な食事内容(調査全体で総計19,788食にも達した)や、
冷蔵庫の中身、調理機器の使用時間、食品廃棄の量、食べた時間などを記録してもらった。

 

また、これらの集計した数字だけではわからない生活者の本音を把握するために、ビデオを使用したインタビュー調査も行った。
具体的には、ライフスタイルの異なる15世帯の家庭を訪問し、実際の買い物や調理、後片づけのシーンや冷蔵庫の中身などをビデオに収めることで、
よりリアルな提案を模索するための貴重な資料となった。

 

さらに、消費生活アドバイザー、食品メーカー、冷蔵庫メーカー、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどをメンバーとする
「“食の省エネ”検討委員会」を設置して、調査データを検証し、一般生活者と事業者とが一体となった施策の展開を企図した。

調査結果をわかりやすく伝えるために

家庭における食生活は、購入、保存、調理、後処理など、さまざまな場面でエネルギーが使われている。
しかし調査結果をみると、食に関する消費エネルギーのほとんど(86%)は、冷蔵庫、ガスコンロ、湯沸かし器の3つで占められていることがわかった。
そこで、この3つの機器に絞り省エネ提案をまとめた。

 

さらに、この提案を生活者に届く言葉で効果的に伝えていくために、広告界のコピーライターとデザイナーに依頼し、パンフレットを制作した。
タイトルは「かしこくいただきます。~食の省エネBOOK」。(写真参照)
複雑な調査データを一人でも多くの人に理解してもらうために、親しみやすいイラストとCGによるグラフを多用して表現した。

 

このパンフレットをもとにしたパブリシティ活動の結果、テレビ、新聞など多数の媒体で取り上げられ大きな反響を呼ぶことになった。
消費者団体、学校、企業、自治体などからパンフレットの送付依頼が殺到し、結果としてパンフレットの発行部数は20万部を超えるものとなった。

 

一人ひとりの取り組みは小さくても、まとまると大きな力になる。
このプロジェクトによる省エネルギーの提案は、全国レベルで実行されると東京ドーム1.5倍の原油節約に相当することが試算された。