『経済広報』(2017年1月号)に企業広報戦略研究所の戸上主任研究員の寄稿記事が掲載されました。

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多様化する広報

本連載では、これまで企業の8つの広報力について各論で触れてきたが、第5回は広報の対象者であるステークホルダーについて解説する。
“ステークホルダー”とは、組織となんらかの利害関係が発生する人々を指すが、広報におけるステークホルダーは、顧客、株主・投資家、メディアが主な活動対象とされてきた。しかし、2014年と2016年の調査結果を比較すると、広報担当者が重要と考えるステークホルダーは、「顧客」「株主・投資家」のTOP2は変わらないが、2014年は3位だった「メディア」(2014年69.1%→2016年67.9%)が4位に後退し、代わりに「取引先」(同 60.8%→68.9%)が8ポイントアップして3位に浮上した。さらに特徴的なのは、「従業員とその家族」(同 53.7%→67.7%)、「地域住民」(同 35.5%→47.8%)がそれぞれ10ポイント以上上がっていることだ。これは、従来広報の主たる活動対象とされていたステークホルダーに加え、より幅広いステークホルダーが重視されるようになっていることを意味する。

図5

 

広報は、本来の意味のパブリックリレーションズの時代へ

図6

さらに、2014年と2016年の広報担当者の業務テーマを比較すると、社内活性化、危機管理、CSR(企業の社会的責任)のポイントが上がっている。これは、先述の“重視するステークホルダー”の「従業員とその家族」「地域住民」のポイントが上がったことと合致しており、自社にあってはインターナルコミュニケーションが、地域にあっては地域住民を巻き込んだCSRや、彼らと共存していくための危機管理に関する活動がより活性化してきていることを表している。
企業の広報は、メディアリレーションズだけでなく本来意味するところのパブリックリレーションズ、つまり、2012年に米国PR協会(PRSA:Public Relations Society of America)が正式に現代の“PRの定義”として発表した「パブリックリレーションズとは、組織と組織を取り巻くパブリックの間の、相互に利益のある関係を築く戦略的コミュニケーションのプロセス」を推進しなければならない時代に入っているといえる。

限られた人材・予算の中では、すべてのテーマ、すべてのステークホルダーをカバーするのは困難である。“相互に利益のある関係”とは誰を指すのか、自社にとっての“戦略的コミュニケーション”とは何か、を常に問い掛け優先順位をつけながら、自社に即したパブリックリレーションズを推進することが肝要である。

筆者

 

 

戸上プロフィール戸上 摩貴子(とがみ まきこ)

株式会社電通パブリックリレーションズ  コーポレートコミュニケーション戦略室 調査部/企業広報戦略研究所 主任研究員

入社以来、主にメディアリレーションズ、リサーチ、ヘルスケアなどの部門を担当。
各部門で、メディアプロモートや調査、ツール制作などを通じた疾患啓発やマーケティングプロモーションを行う。現在は調査部に所属し、報道論調分析やヒアリング、ネット調査など、調査を起点としたコーポレート・コミュニケーションを担当。