2023年11月29日に『PBR1倍割れ、その時企業は? ~ステークホルダーへの非財務情報と企業魅力の伝え方~』と題した定例研究会を開催いたしました。

今回のセミナーでは、企業価値の指標として注目が集まる「PBR(株価純資産倍率)」に注目し、PBRと広報力(企業広報力調査450社回答)の関係性からみる重点課題、企業価値向上の観点から重要度が高まっている「非財務・ESG情報」を分析する「非財務クロスバリュー」モデルに基づく考察、さらに、当研究所オリジナルの指標である企業魅力度ブランディングモデルによる生活者1万人の調査データから見えてきた業界別特徴や、企業と社会課題の関係性などについてご紹介いたしました。

最初に、所長の阪井より「PBR1倍割れ、その時企業は?」と題したオープニングセッションを実施しました。2023年3月に東京証券取引所がCEO会見において「PBR革命」と表現し資本コストや株価を意識した経営を要請してきた背景、その8年前、2015年に導入されたコーポレートガバナンスコードにおいて「株主以外のステークホルダーとの協働」や「建設的な対話」が要請されていたことを振り返りつつ、東証による3月の要請後、海外投資家が企業の「IRリソース」への投資姿勢に注目していることなどを紹介いたしました。
こうした状況を踏まえ、本日の定例研究会ではPBRを構成する「株価」が「ステークホルダーによる評価」であることに広報的視点から着目し講演を進めることを説明しました。

 

 

 

2番目に主任研究員の河本昇吾より「企業広報力調査とPBRの関係分析からみえてきた課題と対策」と題して講演をおこないました。

 

 

当研究所が隔年で実施させて頂いている上場企業の皆様への広報活動や課題意識を把握するための「広報力調査2022」の回答データ(下図)と、PBRの関係性分析結果を紹介いたしました。

 

 

https://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-outline/20221027.html

 

その結果、PBR1.0以上と1.0割れの企業とでは、明確に広報活動の実施率が異なることが判明しました(36.4>28.7、有意差あり)。特に、「課題把握力」「クリエイティブ力」「広報組織力」の差が顕著であることがわかりました(下図)。

 

 

 

こうした結果を総合的に分析し以下の重要ポイントであることを説明いたしました。
・ステークホルダーの期待・不安を把握/分析の必要性
・メディア目線でのコンテンツ設計
・広報と経営層での密なコミュニケーション 
→これらが企業価値(≒PBR)の向上に繋がっていく。

 

続いて、3番目に上席研究員の増田勲より「非財務・ESG情報の魅せ方・伝え方」と題して講演をおこないました。

 

 

注目度が高まっている“非財務情報”ですが非常に多岐にわたる経営情報のどこに注力してコミュニケーションすべきなのかが判断しにくい状況が続いていると考え、それらを解決するために開発した『非財務クロスバリュー』モデルに基づく個人投資家向け調査結果を発表いたしました。
このモデルは『ESG財務戦略』(ダイヤモンド社、2022年 )など、非財務分野に精通された慶應義塾大学総合政策学部 保田隆明教授 監修のもと開発しています。

 

 

 

調査・分析の結果、最も注目されているポイントは『社会・関係資本×ガバナンス』。中でも、「企業価値向上のための経営計画の説明」が重要という結果になりました。
さらに「業界に求められる情報を把握し、対応する自社のファクトを伝えていくと効果的」であること、IR専門メディアに加え、一般メディア報道が大事であることを報告いたしました。

 

 

 

 

続いて、上席研究員の木村圭助より「魅力度ブランディング調査2023 ~企業に期待される社会課題解決とは?」と題した講演を実施しました。

 

 

「魅力度ブランディング」とは当研究所がオリジナルに開発したモデルで、毎年、実在する企業200社を対象に一般生活者1万人に調査を実施しています。

参考:魅力度ブランディング調査結果リリース:
https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20231106.html
本セミナーでは、特に「株式保有者が重視する傾向」を分析し発表しました。その結果「人的魅力」が重要で、なかでも「ビジョンを掲げ、業界を牽引している」が最も重要視されていることがわかりました(下図)。

 

 

 

さらに、この企業魅力の総量と近年注目度の高い社会課題(ソーシャルイシュー)との相関を分析した結果、1位「賃上げ(物価に対して低い賃金上昇率)」、2位「個人情報保護」、3位「モビリティ・物流の規制緩和」となりました。

これらの結果から、以下の3点をまとめとして報告をしています。
1. 人的魅力の発信
企業の魅力の最重要事項は人的魅力。特に「ビジョンを掲げ、業界を牽引している」が8年連続1位。株式保有者は、非保有者に比べて、人的魅力を重視する傾向。

2. ソーシャルイシュー対応
企業の魅力総量とソーシャルイシューには相関が見られた。特に、賃上げ・個人情報保護・モビリティ物流の規制緩和がTOP3。
但し、業界や個社によって状況が異なるため、取り組むべき課題は検討が必要。

3. オウンドメディアでの情報拡充
株式保有者は、株式非保有者に比べ、オウンドメディアで情報を重視する傾向。トップのビジョンやソーシャルイシューへの対応をわかりやすく伝える(動画など)。

 

最後に所長の阪井完二(写真左)よりクロージングセッションをおこないました。

 

 

一つ目の講演「企業広報力調査とPBRの関係分析からみえてきた課題と対策」においては、PBR1倍以上と1倍割れ企業では明確に広報活動実施率が異なる3項目「①クリエイティブ力」「②課題把握力」「③広報組織力」があり、これらへの対応が重要であること。
二つ目の「非財務・ESG情報の魅せ方・伝え方」においては「社会・関係資本×ガバナンス」。中でも、「企業価値向上のための経営計画の説明」が最も大切であること。
三つ目の「魅力度ブランディング調査2023 ~企業に期待される社会課題解決とは?」では、人的魅力の重要性。特に株式保有者は「ビジョンを掲げ、業界を牽引している」をより重視している。さらに社会課題対応の重要性について確認をいたしました。
各研究ユニット発表のまとめとして、“3つの投資”を提言(下図)し講演は終了いたしました。

 

 

 

その後、参加者から多くの質問を頂戴いたしました。
「経営層との距離感というのは、取締役会を指していますか?それとも経営者をさしていますか?」「企業の魅力とソーシャルイシューについて、自社が取り組むべき社会課題を把握する方法などはありますか?」「個人投資家はオウンドメディアに注目しているとのことですが、統合報告書はどのくらい注目されているものでしょうか?」など、時間の許す限り回答をさせて頂きました。

 

 

 


 

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企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内) info-csi@dentsuprc.co.jp