1.テレビ視聴とネット利用の時間量変化

私の研究室では1995年以降、5年ごとに全国13歳から69歳を対象とする「日本人の情報行動調査」を実施している。この調査の特色は、住民基本台帳に基づくランダムサンプリングによる訪問留置調査であり、調査手法として学術的に信頼性の高いものであること、調査は日記式と質問票調査の2種類から構成されるが、日記式調査ではメディア利用行動について詳細な記録を求めており、ネット利用についても媒体ごと利用内容ごとに分け、2015年調査では計14項目にわたるほどである。サンプルは毎回1,500人前後で2015年調査では1,362人(N=2,724人日)であった。

そのデータによれば、若年層においてはこの20年間、テレビ視聴時間が大きく減少し、10代は95年の183.5分から2015年の72.6分へ、20代は同じく213.8分から111.3分へとほぼ半減している。

一方で汎ネット利用時間(※1)は2015年に20代で151.1分、10代で105.7分と、ともにテレビの視聴時間を上回った。いまや若年層の情報行動の中心は、テレビからネットに移行したのである。なお、ネット利用時間のうち、20代は63.2%、10代は88.6%がモバイル機器を通したネット利用であ

※1 利用機器、利用場所、利用内容にかかわらず、ともかくネットを利用した「汎ネット利用」。同一時間帯で並行行動した場合、重複カウントをせず時間帯内での最大値をとって計算

 

2.テレビ、ネット利用の時刻別推移

図1 10代テレビ視聴行動率とネット利用率の事故区別推移【図1 10代テレビ視聴行動率とネット利用率の時刻別推移(2015年、15分刻み)】

 

図2 20代テレビ視聴行動率とネット利用率の事故区別推移【図2 20代テレビ視聴行動率とネット利用率の時刻別推移(2015年、15分刻み)】

 

図1と図2はテレビの視聴行動率、汎ネット利用率、両者の並行行動率の時刻別推移を示したものである。調査日は2日間であるが、調査対象者によって調査対象日は平日6日間にまたがり、数値はそれらの平均である。

図に示される通り、10代は20時30分台以降、20代は20時台以降(途中21時30分台に一時的にテレビがネットを上回る)、ネット利用率がテレビ視聴行動率を上回っている。 図の提示は省略するが、2010年から2015年にかけて、2015年でネット利用率が高い時間帯のテレビ視聴行動率が減少している。
つまり、10代20代の一部は概ね20時以降の夜間、テレビ視聴に替えてインターネットにアクセスし、その分、5年間でテレビ視聴行動時間が減少したことになる。ちなみに利用機器でいえば、10代20代とも夜間の「汎ネット」の大半がモバイル機器によるものである。

 

3.ネット利用の内訳

図3【図3ネット利用の内訳(単位:分)】

 

そもそもネットで若年層はどのような内容の利用をしているのか。図3は我々の2015年調査からネット利用の内訳を利用項目別に示したものである(積み上げグラフであり、同時間内の重複調整をしていないため、合計時間は上述の数値より大きくなっている)。

左からメール、ソーシャルメディアの順に並んでいるが、概してネット利用の中でコミュニケーションに関わる利用が多い。メール、ソーシャルメディアにネット音声通話を加えたコミュニケーション関連が、全ネット利用の中に占める割合は20代で64.7%、10代で72.2%に達する。

 

図4 10代時刻別ネット利用の内訳 (15分刻み)【図4 10代時刻別ネット利用の内訳 (15分刻み)】

 

図5 20代時刻別ネット利用の内訳 (15分刻み)【図5 20代時刻別ネット利用の内訳 (15分刻み)】

 

10代20代について、ネット利用の内訳の時刻別推移を示したのが図4(10代)、図5(20代)である。ここでは「メール」と「ソーシャルメディア」を併せて「コミュニケーション系」として示し、あと利用時間の比較的長い「動画系」のデータを示した。

しばしばテレビはネット動画(ネットフリックス等のVODも含む)に時間を奪われた、と言われることがあるが、ネット動画視聴は、時間量でもさほど大きなものではなく(図3)、時刻別推移でも夜間のネット利用のなかでの行為者率の占有度はさほど高いものではない。

在宅自由時間におけるメディア利用は基本的には暇つぶしである。これまで若年層も夜の在宅自由時間の多くをテレビ視聴に割いてきた。それがネットの普及とともに、「おもしろさ」「楽しさ」を求めるメディアとしてネットがテレビに優先し始めた。10代20代にとって、その「おもしろさ」「楽しさ」の対象は、ネット上の既成のコンテンツよりもむしろ人との交流である。おそらくネットの登場以前であれば、電話で同等の機能を担うことができたと思われるが、電話であれば完全に同期であるため、相手を拘束することになり、そもそも相手が対応可能かどうかもわからない。また通信に要する費用も馬鹿にならない。ところがソーシャルメディアの普及により、複数の相手と、それぞれの状況に応じて、ほとんどコストをかけずにコミュニケーションすることが可能になった。それで暇つぶしができるのであれば、何も無理にテレビ画面に目を向ける必要はないわけである。

そもそも一方的に複数の受け手に送られてくるコンテンツを受動的に見るより、より多くの楽しさや心のいやしをネット上の相手とのコミュニケーションに見いだしているというのが今の若者の現状だと言えるのではないか。テレビは、専念して見るにはじれったく、特にこちらから求めて見るほどのものではない、というのが今の若者の実感だろう。テレビはネットの配信コンテンツに時間を奪われたのではなく、ネットを介した対人交流に時間を奪われたのである。

 

4.結婚後の変化

 図6 「配偶者あり」の時刻帯別テレビ、ネットの利用率(30代)
【図6 「配偶者あり」の時刻帯別テレビ、ネットの利用率(30代)】

 

図7 「配偶者なし」の時刻帯別テレビ、ネットの利用率(30代)
【図7 「配偶者なし」の時刻帯別テレビ、ネットの利用率(30代)】

※Nは「配偶者あり」が304、「なし」が122

10代20代のテレビ視聴時間が減少し、ネット利用時間が増加しているのはすでに述べた通りであるが、彼らが年齢を重ねたときに、このような傾向は継続するのか。おそらく結婚後、情報行動パターンは変化するというのが筆者の推測である。

それを裏付けるデータを一つ示したい。図6は「配偶者あり」、図7は「配偶者なし」のテレビ視聴行動率、ネット利用率の時刻別推移を示したものである。配偶者の有無のバランスは年齢によって大きく変化する。また、テレビ視聴、ネット利用は年層による影響が大きい。そこでここではそうした年層効果を排除し、かつ配偶者の有無の極端な偏りを避けるため、30代に限定して分析した。

配偶者の有無で大きく異相を呈するのは20時以降のネット利用である。「配偶者なし」は20時以降でネット利用率が増加を続け、21時にはテレビを凌駕する。一方「配偶者あり」は夜間の大半、ネット利用率はテレビ視聴率に比べてかなり低い。

図8に示すとおり1日の平均利用時間で見ても、30代の分析では、「配偶者あり」と「配偶者なし」ではテレビ視聴時間で配偶者ありが若干長く(ただし危険率5%未満の水準で有意差なし)、ネット利用時間では「配偶者なし」の方がかなり長い(危険率0.1%未満の水準で有意差)。

図8 配偶者の有無によるテレビ、ネット平均利用時間(単位:分、30代)

【図8 配偶者の有無によるテレビ、ネット平均利用時間(単位:分、30代)】

夜の自由時間、テレビは配偶者(およびその他の家族)とともに視聴でき、共通の暇つぶしの手段になりうるが、ネットは配偶者がそばにいては、利用しづらい。あるいは、配偶者のいない人は、時間つぶしの対象を、テレビ視聴のほか、ネット上でのコミュニケーションに求めるが、配偶者のある人はネットへの依存率が低くなる。配偶者や家族とのコミュニケーションが、ソーシャルメディアによるネットでのコミュニケーションと同等の機能を果たすため、あえてネットにアクセスする必要がない。

今後、テレビvs.ネットの構図で見れば、さらに若年層のテレビ視聴時間の減少が続くかもしれない。しかし、配偶者の有無も考慮した分析結果から言えば、現在の10代20代も、彼らが結婚するとともに夜間のネット利用が減少し、その分、テレビ視聴時間が担保される可能性はある。

 

 

5.社会的関心の消失

テレビや新聞に接する場合、とくに積極的意図がなくても、さまざまなニュースに接する。ところがネットの場合、自らの意志で自ら欲する情報サイトにアクセスすることが多いため、必然的に接する情報領域が限定される。多くの若年層が好むのはスポーツやエンターテインメント領域のニュースであり、政治や国際関係に関する情報はスルーされがちである。テレビの視聴時間が減少し、ネットの利用時間が増加することは、一般的にはそれだけで若者における関心領域の狭小化を加速する。

しかも、ネットの利用で半分を超える時間はコミュニケーション系のサービスやアプリの利用であり、そこで交わされる情報は身辺雑記的なものが大半であることが想像される。そのことでますます社会的イッシューに対する無関心は助長される。

実際、我々の調査で、「政治に関心がある」と答えた人の比率は、10代で2005年の44.8%から2015年の18.6%へ、20代で57.1%から33.6%へと低下している。ネット利用だけがその原因でないにしろ、情報行動の変化が政治関心の減退を促進している可能性がある。

 

6.まとめに代えて

これまで若年層にあってはメディア利用時間でネットがテレビを凌駕したこと、ネット利用の内訳では半分以上がソーシャルメディアの利用に充てられていることを見てきた。

我々の研究室では2012年以降総務省情報通信政策研究所とも毎年、共同で全国調査を実施しており、各種情報をどのメディアから入手しているかについて質問している(表1)。

表1 グルメ、ショッピング、旅行観光情報の情報源(最も情報を得たものひとつ回答、単位:%、2014年調査)【表1 グルメ、ショッピング、旅行観光情報の情報源(最も情報を得たものひとつ回答、単位:%、2014年調査)】

 

たとえばグルメ、ショッピング、旅行情報について10代20代では「ソーシャルメディア」と答える比率がここ数年で増加傾向にある。複数回答ではショッピング情報の場合、10代で12.9%、20代で14.9%が「ソーシャルメディアから情報を得る」と答えている。

つまり今日、若年層にあってソーシャルメディアは友人との情報交換だけでなく、消費行動の情報を得るメディアでもある。

今後の企業の広報活動の趨勢には、ソーシャルメディアの活用が大きくかかわっていると言って過言ではない。

 


 

注)本論に掲載したデータの一部は下記の文献と共通のものである。

橋元良明(2016) テレビ視聴と日本人―「2015年日本人の情報行動調査」から見えたこと、TBS『調査情報』2016年1・2月号No.528。

 

プロフィール

橋元良明橋元 良明(はしもと よしあき)
東京大学大学院情報学環・教授

1955年京都市に生まれる。1978年東京大学文学部心理学科卒業。1982年同大学大学院社会学研究科修士課程修了。
現在、東京大学大学院情報学環教授。専門分野は、コミュニケーション論、社会心理学。

所属学会は、日本マス・コミュニケーション学会(理事)、社会情報学会(会長)、社会言語科学会(会長)、情報通信学会、総務省 情報通信白書編集委員。

【主な著書】
・『メディアと日本人―変わりゆく日常』(岩波新書)
[以上、単著]

・『日本人の情報行動2015』(東京大学出版会)
・『日本人の情報行動2010』(東京大学出版会)
・『メディアコミュニケーション論Ⅰ』(北樹出版)
・『メディアコミュニケーション論Ⅱ』(北樹出版)
・『メディア・コミュニケーション学』(大修館書店)
・『講座社会言語科学 メディア』(ひつじ書房)
・『ネットワーク社会』(ミネルヴァ書房)
[以上、編著]

・『ネオデジタルネイティブの誕生』(ダイヤモンド社)
[以上、共著]