コミュニケーションデザイン局 シニアコンサルタント 大川陽子

1. 今、CSRに求められる要素とは?

環境対策に起点がある日本のCSR(企業の社会的責任)の取り組み。環境マネジメントの国際規格ISO14001が発行されたのは1996年。取得の有無が輸出入の可否に関わるということもあり対応は加速した。ある意味、国際的な規格にそって取り組みを行うというのは日本人の性格に合致した動きだったともいえる。その後約20年。サスティナビリティ(持続可能性)の観点なくしては事業継続が厳しくなってきているなか、企業をはじめとしたさまざまなステークホルダーの社会的責任に関するガイドラインISO26000が2010年に発行された。ポイントとなるのは「人権」への対応、「バリューチェーン」での捉え方、そして「ステークホルダーエンゲージメント」に対する取り組みである。グローバル化が進む中でいずれも重要な観点であるが、日本企業にとって捉えにくいテーマであるといえる。そして、この規格はあくまでもガイドラインであり、認証規格ではない。いかに効果的に活用できるかはその企業の姿勢にゆだねられる。いわゆる〝規定演技〟ではステークホルダーからの評価が上がらない。そこで重要になってくるのがステークホルダーとの関係づくりだ。社会のなかで企業はどのように位置づけられるか、社会的課題(イシュー)をどう捉え、ステークホルダーとの関係性をふまえどう対応していくのか、しっかりと明示していかなくてはならない。企業だけで答えを出せることでもなく、独りよがりでは批判の対象となりリスクに発展する可能性もある。そのために、ステークホルダーとともに考える場づくりを行い、互いにwin-winの関係づくりを行っていく。そのプロセスから全て共有していく。そんな〝ステークホルダーとのより良い関係〟をカタチにしていくことが2013年の今、求められるCSRである。

2. CSV(Creating Shared Value)の動き

ステークホルダーとのより良い関係をカタチにするにはどうしたらよいのか。そこで注目されるのがCSV(Creating Shared Value~共通価値の創造)である。CSVはハーバード大学教授のマイケル・ポーターが提唱している考え方。事業活動を通じて社会的課題をステークホルダーとともに解決し、互いにwin-winの関係性の中で価値を見いだしていくことができる取り組みの基盤となる。昨今話題となっているBOP(Base of pyramid)ビジネス(世界の所得別人口構成の中で最も収入が低い所得層をターゲットとしたビジネス)も、企業の商品・サービスを通して低所得者層の生活水準の向上、当該地域の経済要素を含む自立を促すことができ、結果的にビジネスに跳ね返るという点で、CSVとして捉えることができる。

CSVに関わる取り組みとして挙げられている事例の一つとして、トヨタ自動車株式会社の『AQUA SOCIAL FES!!(アクアソーシャルフェス)』という一般参加型のプログラムがある。アクアソーシャルフェスは、水をテーマに、地元の自然環境を保護・保全する地域社会貢献活動プロジェクトを、トヨタが地元のNPOや地元メディアと協力しながら、日本全国で展開。これは、「共成長マーケティング」という新しいプロモーション手法として提示されている。株式会社トヨタマーケティングジャパンの担当者は、『共成長マーケティングとは、「企業」「社会」「個人」の三者が、「共に成長する」という関係で結ばれることを意味し、共成長マーケティングを続けることによって、企業にとっては「ブランド思想を理解してもらい、選んでもらえるようになること」、社会にとっては「よりよい自然や環境がもたらされること」、個人にとっては「マーケティング活動に参加して楽しめる、達成感がある」といったメリットがあり、おのおのが持続的にそれを享受できるのがポイントである』としている。
(2012.1.31 Business Media 誠 『CSRからCSVへートヨタが仕掛ける「共成長するマーケティングとは』

アクアソーシャルフェスwebサイト http://aquafes.jp/

アクアソーシャルフェスフェイスブック http://www.facebook.com/aquafes

CSVという考え方を具現化する方策はさまざまであり、企業の姿勢にゆだねられる部分も大きいが、各社の考え方で積極的な取り組みが進んできている。業界を代表する企業が、企業理念の中核をなす考え方として“共通価値の創造”を据え、注力分野に焦点を当てつつ、関わる社会課題と解決策=価値を生む方策を展開する動きも目立ってきている。各社の取り組みを踏まえると、①社会的課題を明確化し、②事業活動との連動をはかり、③ステークホルダーとともに取り組み、双方に価値を見いだすものとなっているか、を見据えて検討を行う必要があるといえる。さらに、取り組みの効果をどのように測るかがポイントとなってくる。経営との関わりを踏まえたうえで展開していくにあたって効果を把握していくことは重要かつ必然であるが、定量的なもののみならず、定性的な要素(地域や生活者等関わるステークホルダーの変化など)も踏まえた独自の指標が必要になってくるだろう。

上述のトヨタの『AQUA SOCIAL FES!!(アクアソーシャルフェス)』では、フェスの来場者へアンケートを実施している。フェスへの参加人数はもちろんのこと、フェスに参加したことによる達成感や、参加へのリピート意向、ブランドへの共感度を測っている。

●「達成感があった」「やや達成感があった」の回答を合わせると、参加者全体の8割以上が達成感
●「AQUA SOCIAL FES!!に、また参加してみたいと思いますか」という問に対して「参加したい」という回答が過半数。「やや参加したい」を含めると8割以上がフェスへのリピート意向
●フェスと「AQUA」というクルマに関する関連付けについて、「フェスの目的・考え方に共感する」という人のうち、「AQUAのブランドに共感できる」と回答した割合が約7割。また、そのうちフェスに参加したことで「AQUAというクルマへの興味や関心が高まった」という割合は9割近く

※フェスの来場者へのアンケート結果より:2012年4月14日~5月27日に開催された合計34会場のイベントに参加した2084人から回収。

(サーチナ http://searchina.ne.jp/経済ニュース2012/09/24(月)『達成感と口コミでイベント開催100突破=トヨタAQUA FES』より)

自動車に乗らない人も〝あしたの『いいね』をつくりたい〟というキーメッセージのもと、その思いが共有できたかどうかを、効果を測る軸として捉えている。フェイスブックでは活動地域でのエピソードが集められ、参加者それぞれの思いを共有する場となっている。また、フェスの参加者の6割が30代以下という結果も出されており、車離れが叫ばれている若年層へのアプローチが可能となったという点においても、マーケティングとして位置づけられる取り組みであるといえる。

このような生活者間で、そして生活者と企業との間で価値を生み出す場=コミュニティづくりを、オンラインとオフラインを連動させての展開は、ステークホルダーとのより良い関係をカタチにするひとつの方策であるといえる。

3. CSRを事業活動と連動する、より効果的なものにするために

以下の3点で、改めて〝CSR〟を見直してみたい。

1.自社が捉える社会的課題(イシュー)は何か。それに対してどのような解決策をとっているか。

2.ステークホルダーとともに社会的課題(イシュー)を共有し、互いに価値を生み出し、共有する活動を行っているか。

3.1、2を踏まえたメッセージを発信し、積極的にステークホルダーとコミュニケー

ションをはかっているか。

これらを踏まえた取り組みを推進することができれば、ステークホルダーとのより良い関係をカタチにできる。それは、企業価値を上げ、レピュテーション向上につなげることにつながる。それを実現できれば、CSR活動が全ての事業活動に関わっており、いかに経営と密接に関係しているか、その位置づけを明確にできる。そんなCSR活動に変えていきたい。


筆者 大川陽子プロフィール
(株)電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局シニアコンサルタント。
日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー。
非鉄金属メーカーの環境関連部門、企業の環境対応等推進するNPO、
コンサルティング会社(社会・環境問題をテーマとした官公庁、自治体、
企業コンサルティング)を経て電通PR入社。CSRをテーマとしたコミュニケーション支援
に関する企画運営、コンサルティングを担当。