企業が国民の健康に対する意識は、近年飛躍的に向上している。少子高齢社会に向けて医療・介護・年金などの社会保障制度に対する問題や不安が露呈し、「自分の健康は自分で守る」というセルフケア意識の高まりが大きく影響していると考えられる。それに伴い、健康増進や健康機能を訴求する商品・サービスも飛躍的に成長し続け、すでに健康食品・サプリメントの市場は1兆円に達している。
だが、一方で誇大・誇張広告など不正確な健康情報の氾濫や情報提供の歪みなどの問題が提起され、健康増進法などの行政による法的規制も強化されている。今まさに正確な情報をどこからどのように消費者に提供していくかという広報(パブリックリレーションズ)活動の重要性が改めて見直されている。

そうした中、高齢社会問題の根底に存在する「認知症(痴呆症)」に対する的確な啓発を行うための調査研究・広報活動に取組んできたのがエーザイ(株)・ファイザー(株)である。
なぜ認知症の早期受診は難しいのか? 早期に受診しやすい社会的環境をどのように作るのか? この課題に対して、専門医の医療チームと組んで実施した調査研究活動から重要な障壁要因を導き出し、その事実を広く知ってもらうことと同時にその様々な要因を取り除くための広報活動も展開してきた。この活動は、認知症が社会全体で取り組まねば対応できない非常に重要な問題であることを社会的に認知させた典型的な「疾患啓発」の事例である。

ヘルスケア分野におけるコミュニケーション活動では、科学的根拠(エビデンス)に基づいた付加価値情報をさまざまなステークホルダーにどれだけ正しく信頼される情報として提供できるかがポイントといえる。そのためには保健医療従事者や研究者など各分野の専門家との良好な協力関係を構築し、エビデンスの蓄積を図っていくことが前提となる。国民の高い関心事であるこの分野では、今後ますます質の高い専門性に特化した広報活動が求められている。