CSRレポートの成り立ち

現在、日本国内では、1000社近い企業・団体が「CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)レポート」を発行しています。しかし、一口にCSRレポートといっても、その掲載内容は各社各様です。それはCSRレポートがさまざまな歴史的背景のなかから誕生してきた経緯があるからです。

CSRレポート発行の大きな契機のひとつは、国際的には、1989年にアラスカ湾で起きた原油流出事故です。この事件を契機に、環境保護団体CERES (Coalition for Environmentally Responsible Economies)が組織され、環境問題への対応について企業の守るべき判断基準を示した「セリーズ原則」が発表されています。
また歴史的にはもうひとつ大きな潮流があります。それは、1970年代以降に吹き荒れた、消費者の環境意識の高揚によるコンシューマリズムの嵐です。当時、欧米の大手企業は、従来の <財務的情報>のみではアカウンタビリティが果たせないと判断し、コーポレート・コミュニケーション戦略の観点から、環境、雇用、性差別、人権や消費者対応などの<非財務的情報>を開示するために社会レポート(Social Report)と呼ばれるCSRレポートを発行しています。
一方、日本国内においては、1996年のISO14001(環境マネジメントシステム)の JIS化と各社の認証取得活動が環境レポート発行のひとつの契機となっています。


CSRレポートはコミュニケーション重視へ

いずれにせよ、こうした企業の自主的な情報開示が進む一方で、これでは、企業が一方的に都合のよい情報のみを掲載するアピールのためのツールになりかねない、との危機感が生まれ、開示情報の各社比較が可能な何らかの統一指標が求められるようになりました。

こうした背景を受け、CERESは、環境報告書のグローバル・スタンダードの策定をめざし、1997年、国連環境計画(UNEP)を中心に、世界各国の企業、NGO、コンサルタント、会計士団体、事業者団体などにより任意団体「GRI(Global Reporting Initiative)」を設立し、CSRレポート発行のための「サステナビリティレポーティングガイドライン(GRIガイドライン)」※2を発行しました。一方、日本では、2001年3月に環境省が「環境報告書ガイドライン」を、同6月には経済産業省が「ステークホルダー重視の環境レポーティングガイドライン」を、その後、環境省は2004年6月に「環境報告書ガイドライン2003年版」を、さらに「環境報告書・GRIガイドラインの併用手引き」を発行し、各社の「環境レポート」発行への取り組みが本格化していきます。

環境報告書が当初、環境情報を開示するディスクロージャー・ツールとしての意味合いが強かったのに対し、現在のCSRレポートは、企業が持続可能な経営を行うために必要な社会課題など非財務的な側面についても報告し、ステークホルダーとのコミュニケーションを促すツールとしての性格が強くなっています。GRIが発行準備を進めているG3(第3世代) サステナビリティ・レポーティング・ガイドライン※1でも、「エンゲージメント(対話の促進によるステークホルダーとの連携・協働)」が中心的コンセプトとなっており、CSRレポートは、よりいっそうコミュニケーション重視のガイドラインに進化してきています。

※1 2006年10月にGRIによりG3(第3世代) サステナビリティ・レポーティング・ガイドラインの公表が予定されています。


企業評価の指針としての重要性

CSRレポートは、単なるパンフレット(印刷物)ではなく、企業評価のための最も重要なコーポレート・ツールです。例えば、日経ビジネスのCSR総合ランキングでは、「CSRレポートの充実度」に評点の20%を割り当て、CSRへの姿勢や取り組み内容のみならず、それらを開示したレポートの記載内容も企業評価の対象にしています。

CSRレポートが評価項目となる背景には、企業評価そのものの軸が変化してきたことがあります。従来の企業評価は、財務業績のみでしたが、現在では、コーポレートガバナンス、コンプライアンスなどの<非財務的要素>も企業評価の主軸になりつつあります。各社が、財務的情報と非財務的情報を統合するトリプルボトムラン※2の考え方に依拠し、アニュアルレポート(財務報告書)、環境報告書、社会貢献レポートなどの記載内容を統合したコーポレート・ツールとして、CSRレポートを発行するのはそのためです。

経営者の意識も大きく変化してきています。従来、CSRレポートや環境報告書の発行を<コスト>と捉える一面もありましたが、現在では、むしろ将来的に利益を生み出す<投資>として捉えています。CSRレポートは、ステークホルダーの声を聞き、社会ニーズや期待を経営そのものに反映させ、ステークホルダーの信頼を獲得し、市場競争力を強化する企業価値向上のためのツールである、との認識です。これまで以上に、人権や社会貢献の重要性を意識しつつ、これらの社会的側面を充実することで、企業評価を高めていく必要性が経営課題として強く意識される時代になりつつあります。

※2 ボトムラインとは損益計算書の最後の行のこと。従来の「経済」のみならず「環境」「社会」の3つの側面から企業評価を試みる考え方を<トリプルボトムライン>という。


電通パブリックリレーションズがトータルサポート

CSRレポートとは、体系化されたコーポレート・コミュニケーション戦略のなかに位置付け企画立案されるべきコーポレート・ツールである、と電通パブリックリレーションズでは考えています。各種ガイドラインに準拠しているか否かといった<ディスクロージャー>の観点からのみでなく、ステークホルダーの声やニーズが十分反映されているか否か、自社にとってステークホルダーに訴求すべき内容や表現とは何かといった「マテリアリティ(重要度)」の観点を重視しています。

そのため、電通パブリックリレーションズでは、CSRレポートの企画制作の前提として、1)CSRの取り組み内容を検証する「開示内容評価(=各種ガイドライン対照)」を基本に、2)コミュニケーション・ツールとしての「表現内容、ビジュアル要素、デザインなどのツール評価」、さらには3)多様なステークホルダーの声や意見などをレポートに反映させるための「ステークホルダー調査」を必須項目とし、コーポレート・コミュニケーション戦略の全体設計の観点から、CSRレポートの企画制作に係わるサポートを行っています。

さらに、電通パブリックリレーションズでは、CSRレポートの掲載項目となる「CSR」への取り組みそのものに対しても総合的なサポートを行っています。コーポレートガバナンス、コンプライアンスなどに関するコンサルティングをはじめ、ステークホルダーとの戦略的コミュニケーションを促進するための社員意識調査や報道状況分析の実施など、CSRに係わる広範なコミュニケーション・コンサルティングを実施しています。