一般市民の目線で中心市街地活性化を検証

近年、地方都市の中心街を歩き気づかされるのは、シャッターが下りている店舗数の多さです。かつては都市のシンボルとして活況を呈していた中心街がいま、空洞化という危機に陥っています。モータリゼーションの進展、消費者のライフスタイルの変化、中心市街地の居住人口の減少。その原因は多岐に渡ると考えられますが、電通PRは全国各地の活性化施策がなかなか効果を発揮しないのは、それが店舗経営者などの当事者のみの事業にとどまっており、一般市民などの多様な層への広がりがないためではないかという仮説を立て、一般市民の目線から中心市街地活性化事業を見直すこととしました。

既存の資料調査、報道状況調査、そして全国市民アンケート調査(20歳以上男女、1,324サンプル)の【基礎調査】を実施して市民意識の構造を明らかにし、それに応じた【実証実験】を実施。市民意識のあり方に基づく広報・啓発の方法論を提案しました。


一般の人は「中心市街地」という言葉さえ知らない

【基礎調査】の結果見えてきたのは、広報・啓発活動の当事者への偏りでした。これまで実施されてきた中心市街地事業では、一般市民に対する広報・啓発が行われてこなかったことが多く、新聞報道においても中心市街地活性化の必要性、意味を伝え切れていないものがほとんどでした。そのため多くの市民は「中心市街地」という言葉さえも知らず、活性化のための施策を知らない人が多数を占めました。

その上、活性化事業の推進者である地方自治体は、当事者である商店街を主な対象と捉えており、市民は商店街の「客」としてしか見ていない実態が明らかになりました。


活性化事業が進行中の富山市、沼津市で実証実験を実施

【基礎調査】の結果明らかになった2つの問題点、中心市街地という言葉を知らない一般市民に、(1)どのような方法で意識喚起を行うか、(2)活性化施策への市民の共感を得るための根拠をどこに求めるか、この解決法を探るために【実証実験】を行いました。

1)広報ツールの試作。
●ワード開発
一般市民になじみやすく、身近な問題として感じてもらうために、親しみやすい広報用の言葉『まちのまん中問題』を試作しました。
●ビジュアル、コピー
さらに、『まちのまん中問題』を訴求するための広報ツールを試作しました。
2)実証実験の方法
現在、中心市街地活性化事業が進行している富山市、沼津市の両市で、試作した広報ツールを実際に見てもらい、その評価をアンケートとグループインタビューにより、定量・定性の両面から調査しました。
実証実験の調査結果により、中心市街地の空洞化に対し、市民は特別な危機感を持っておらず、また、活性化事業への市民のコンセンサスも得られていないことが明らかになりました。こうした点を解消するためには、「空洞化」が市民にとって何故問題なのかを伝え、危機感をあおるだけではなく問題への対処法をきちんと示すことが重要だと確認できました。


中心市街地活性化事業は「コンパクトシティ」づくりへの道

活性化事業を成功に導くためには、中心市街地の空洞化が、若年層に対しては「自分たちの子供の世代にとっての危機であること」を、40代以上には「老後の生活不安につながること」を訴えることが必要で、将来の街づくりのビジョンを示すことで、活性化事業に対する一般市民の共感を育てていくことが効果的なのです。

こうした課題へのひとつの答えが「コンパクトシティ」。すなわち、様々な機能が中心市街地に集約されることで、都市機能を向上させ、高齢者にも環境にも優しい街づくリが可能になるという考え方により、一般市民の共感が得られやすくなります。


市民の共感と参加意欲を高める広報・啓発活動を立案

電通PRは、以上の調査結果・分析を踏まえ、中心市街地活性化を単なる商店街対策で終わらせず、将来にわたり持続可能なまちづくり(コンパクトシティ)を目指すものと位置づけ、明確なビジョンを一般市民に浸透させるための広報・啓発活動を提案しました。

1)媒体

市民と行政をつなぐパイプが細いため、通常使用されるポスターと行政広報(誌・紙)だけでは伝わりにくく、複数の媒体を効果的に組み合わせて使用することが望まれます。なかでも伝える相手によって、若年層には「タウン誌」「ホームページ」を、中高年層には「新聞広告」「行政広報」をと、媒体を使い分けることが有効です。
これに加え、広く話題を伝えるためにコア媒体として「地元のテレビ」「ポスター」を併用することにより、伝達効果が高まります。

2)広報ワード

親しみやすい言葉である「まちのまん中問題」をキャッチフレーズ的に使用しながらも、より具体的に問題提起する言葉、「中心市街地空洞化」を添えることで、より理解を高めることが可能となります。


市民の心を捉え、行動へとつなげる広報・啓発プラン

電通PRは、これまで行政を始めとする様々な公的機関の広報・啓発活動を支援してきました。その中で、私たちは常に一般市民の視線に立ってのコミュニケーションを大切にしてきました。市民とつながり、積極的な参加を促す広報・啓発活動。人と社会の関係性が薄れていると言われる現代だからこそ、その成功の鍵が、パブリックリレーションズ活動のなかに隠れているのです。

※このプロジェクトは、経済産業省中心市街地活性化室がPRSJを通じて発注先を募り、21社が参加したコンペを経て当社が受注、担当をさせていただくことになりました。