はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下”コロナ”)の世界的流行は、生活者の行動や価値観を大きく変えました。電通PRコンサルティングでは、この変化を踏まえ、2021年に企業や団体が取り組むべきコミュニケーション課題を各界のオピニオンリーダーと共に、先読みしていきます。

 


 

「Z世代」篇

第5弾は、これからの社会や消費の中心を担う世代として期待されている『Z世代』をテーマにお送りします。お話をお伺いしたのは、コンサルティング事業を展開する傍ら、自らの大学講義がきっかけとなり「Z世代」も研究するループス・コミュニケーションズの代表取締役 斉藤徹さんと、大学在学中に斉藤さんの元で学び、「Z世代」の視点を生かした学生発のスタートアップを立ち上げ数々のプロジェクトを手掛けているdot代表の冨田侑希さんです。

お二人のお話から、電通PRコンサルティングが、次代を担う世代とのコミュニケーションのベクトルについて考えました。

*注:「Z世代」は、1996~2010年生まれ、「Y世代」は、1981~1995年生まれの人たちの総称。「ミレニアル世代」は、「Z世代」と「Y世代」を含めた1981年以降に生まれた人たちを指します。

 

本レポートでは、「Z世代」の中でも特に現役大学生に絞り、冨田さんにはコロナ禍を経ての彼らの今をリアルに語っていただきました。そして、斉藤さんには、冨田さんのお話を踏まえ、「Z世代」の深層を読み解いていただいています。


斉藤徹さん(左) / 冨田侑希さん(右)

 

1. 加速した二つの安定志向=「人間関係」と「将来設計」

冨田:

コロナの影響で、大学生の生活は一変しました。授業がオンライン化されたことはもちろんですが、リアルに友達に会う機会がなくなり、授業の合間の雑談や一緒に遊ぶ時間もほとんどありません。学校のイベントも中止になったり、部活やサークル活動もできず、みんな少なからず“青春ロス”になっていると思います。
そんなコロナ禍でのコミュニケーションは、Zoomや電話が多くなりました。これは個人的な感覚ですが、LINEなどテキストベースのSNSの利用は減ってきていると思います。
就活は、昨年よりも早く動いている学生が多いことからも、焦りが感じられます。生まれた時から右肩下がりの日本で育ってきた「Z世代」は、そもそも安定志向ですが、就活生を見ると経済的な安定に加え、会社での居心地の良さを重視する傾向が強くなっていることを実感しています。それもコロナによってコミュニケーションが希薄化したことで、コミュニケーションが取れる会社を重視したいという思いの強さが影響していると思います。

 

 

#リアルコミュニケーションが失われ、音声・動画の価値が高まる

斉藤:

「Z世代」は、デジタル・ネーティブとよくいわれますが、今回のコロナの影響でZoomを始めるために初めてパソコンを購入した学生も多いことから、デジタル・ネーティブと表現するのは「Y世代」の方が適しています。むしろ、Z世代はスマホでソーシャルメディアを使いこなしながら、人とのつながりを大切にしてきた「ソーシャル・ネーティブ」です。

キャンパス内で人と緊密につながっていた彼らは、コロナの影響でさらに人とリアルにつながることの価値を再認識したと思います。そこで多用されるようになったのが、音声や動画を通じてコミュニケーションが取れるZoomや電話です。LINEのようなテキストコミュニケーションは、あくまでリアルコミュニケーションの補完的なものですから、「LINEが減って電話が増えた」というのは、必然だといえるでしょう。

 

#言語や数値で表せない、心地よい空気感に引きつけられる

斉藤:

企業の居心地の良さを重視するのは、安定志向の「Z世代」ならではの特徴といえるでしょう。Z世代は、仕事に限らず全てにおいて、人間的に顔が見える付き合いをしたいと思い、お互いが違うことを尊重し合いながら、意味を共有することで気持ちよく一緒に物事を進めたいという意識を高く持っています。私はそんな「Z世代」を、民主的でリベラルな世代だとみています。

企業は、自社を言語化や数値化してアピールしようとしますが、むしろZ世代にとっては、居心地のような言語化しにくいものの方が魅力を感じることから、非言語・非数値のコミュニケーションを企業は工夫していくべきだと思います。

 

豊かな暮らしに最も大切なもの

[注釈] 「Z世代」は、他の世代と比較して「家族や友だちとのつながり」を大切にしている。

出典:斉藤氏資料「日本のZ世代を理解しよう」

 

 

2. 情報の対称性”を意識したマーケティングや企業システムのイノベーションを

冨田:

消費においても「Z世代」は、人との関係を重視します。おそらく企業がマーケティングのために発信するSNSを見ている人は少ないのではないでしょうか?むしろ、店員など働いていらっしゃる方の発信の方が、思いも伝わりますし、実際にアパレルなどでは「店員さんのSNSが参考になる」という声も聞かれます。

就活においても、「Z世代」は価値観が多様ですから、歴史や実績を語るよりも、一人一人が生き生きと働いていることが伝わる方が魅力的に感じると思います。
ブランドや企業で働いていらっしゃる方に好感を持ち、その方から伝わる情報を通じて、ものづくりへの思いを感じ、そして好きになっていく。消費も就活も、それが「Z世代」との関係づくりのプロセスになっていると思います。

 

 

#情報の非対称性を前提としたコミュニケーションは、「Z世代」に通用しない

斉藤:

他の世代と比較してコミュニケーション能力にたけている「Z世代」には、テレビCMなどの従来のマス広告は通用しないと私は考えています。

マス広告は、企業と消費者の間の情報の非対称性を前提とし、企業が消費者に情報を提供して価値観を均質化するというアプローチです。しかし、スマホなどであらゆる情報を得る「ミレニアル世代」以降の世代は、情報の対称性を前提としているので、従来のマス広告には懐疑的です。また、「Z世代」は、学生時代からSNSでコミュニケーションを取り、既読無視や仲間内のプチ炎上などで悩んできた経験から、相手の気持ちを見抜く力を身につけています。ですから、きれいにつくり上げただけの広告では、底の浅さを見抜かれてしまうのだと思います。

情報の対称性を前提に、コミュニケーションリスクを恐れず人間対人間として誠実に付き合い、対話を交わし、信頼関係を築く中でブランドへの好意を確かにしてもらえるような、深化型のコミュニケーションを企業は重視すべきだと思います。

 

#企業はテクノロジーを活かし、本質的な社内システムの改革を

斉藤

コロナでリモートワーク化が進み、組織の一体感をつくることが難しくなっているという話を聞きますが、それも従来の情報の非対称性によるコミュニケーションが根底にあると考えられます。これまでの企業内コミュニケーションは、リスクなどを考慮したマニュアル重視の管理志向で、上から下へと情報を流すことで内部の統一化を図ってきました。しかし、そうしたコミュニケーションが、社員を内向きの目線にし、社員の熱意を奪ってしまっているのではないでしょうか。特に「Z世代」は、性悪説に基づくマニュアル重視やリスク管理を嫌う傾向があります。

今回のコロナにより、新しい生活様式を支えるテクノロジーは指数関数的に進化するでしょう。働く場が分散化し、個の意識が高まっている今こそ、企業はテクノロジーを生かして、社員の目線が外に向くような本質的なシステムの変革を図り、ビジネス構造を変えていくべきだと私は考えています。

Z世代に浸透している消費行動

[注釈] 「Z世代」は、ブランドよりも自分の感性を大切にしている。膨大な情報から自分に心地よい情報を探し出すことを重視する点も情報の対称性を前提にしている世代の特徴といえる。

出典:斉藤氏資料「日本のZ世代を理解しよう」

 

 

3. Z世代がけん引する新しい市場領域、キーワードは「共体験」

冨田:

dotでは、大学生に将来の暮らし方について調査を行ったことがありますが、まだ結婚もしていない彼らが、将来の自分の家族や子どもについて真剣に考えていることが調査結果からうかがえました。特に、子どもの学びにつながるような「体験」を多くさせたいという声が多かったことが印象的です。
また、恋愛感覚による調査でも「恋人同士でのデートや食事は割り勘が当たり前」と考えている「Z世代」は、3人に2人以上(67%)ですが、この数字は男女平等という意識もありますが、お互いに同じ体験をしたことに対して、平等にお金を払うという意識も反映されていると思います。
これらの結果からも、「Z世代」の特徴として、家族や仲間との体験を大切にしたいという気持ちを読み解くことができると思います。

 

 

#体験消費にも違い、Y世代「個人志向」⇔Z世代「仲間志向」

斉藤:

世代別の消費行動を見ると、「X世代(1960年代初頭~1970年代ごろに生まれた世代)」が、モノ消費志向であるのに対し、「Y世代」と「Z世代」はどちらも体験(コト)消費志向です。ただし、「Y世代」と「Z世代」に違いもあり、「Y世代」の体験消費が個人ベースであるのに対し、「Z世代」は、人と一緒に体験する仲間志向が強く、「共体験」を大切にする傾向があります。

この違いが生まれた背景の一つが、ネット体験の違いです。「Y世代」は、思春期に「2ちゃんねる」などの匿名コミュニティーでの理不尽な炎上などを見て、プライベートをさらすことを避け、個を重視するようになりました。一方、「Z世代」は、15歳でスマホデビューをし、SNSで仲間と情報・体験・場所をシェアしてきた世代です。この経験の違いが、体験消費のスタイルの違いにつながっていると思います。

#リアルもオンラインも、「Z世代」が“共体験”マーケットをけん引する

斉藤:

 「Z世代」は、コロナ禍で仲間とリアルな「共体験」をすることが難しい中、Zoomで情報や時間を共有するためにPCを購入しました。もともとソーシャル・ネーティブで、かつ立場を問わず、仲間とでも企業やブランドとでも、フラットな関係で一緒につくり上げることが好きな彼らですから、今回の経験を生かし「Z世代」がけん引する新しい“オンライン共体験”のマーケットが生まれるかもしれません。

ただし、彼らが大切にしたいのはリアルな「共体験」です。ポストコロナでは、コロナで我慢をしていた分だけ、リアルな「共体験」にかける時間もお金もぐっと伸びるようになると思います。

[注釈] 斉藤氏は、「Z世代」を自分と異なる若者とみなすことではなく、新しい時代の価値観に素直に生きる人たちと捉えるべきとしている。

出典:斉藤氏資料「日本のZ世代を理解しよう」

 

 

あとがき:

【電通PRトレンド予測レポート編集部の視点】

Z世代(特に大学生)は、「人間関係」を重視する彼らにとって欠かせない「リアル」でのコミュニケーション機会を授業のオンライン化によってロスしたことと、就職活動について企業の採用状況が例年より厳しいものになったこと、この二つによる不安を抱えていることがうかがい知れました。企業のZ世代との関係性という視点では、その不安を解消するところに、今後のコミュニケーション活動へのヒントが隠されていそうです。

 

・Z世代人財と企業HR 「人対人」のフラットかつぬくもりが伝わる関係が鍵

コロナ禍による経営への影響が小さくないご時世、採用広報には優秀な人材を獲得するというだけではなく、できる限り長く活躍をしてくれる人材を採用することの重要性も高まっているかと思います。コロナ不況への不安を抱えて就職活動を行うZ世代人財と企業、お互いにとってのベストマッチを実現するためには、以前の採用広報活動を単純にオンラインへと置き換えするだけでは不十分です。人間的関係性の構築が重要になりますので、社員の顔や社の雰囲気、温かみといった非言語の情報をいかに伝えるかと、情報の非対称性が生まれないフラットなコミュニケーションが求められます。その時に企業側は社員全員が接点となり得るわけですので、HRの視点においてもインターナルブランディングの重要性が高まってきそうです。

 

・Z世代と消費 「共体験」ロスを埋める「“リア充”消費」に注目

消費行動は1990年代以降、商品の購入を中心とする「モノ消費」から、体験価値に対価を支払う「コト消費」へ、そして2010年頃からはある場所や時間を誰かと一緒に盛り上がる「共体験型の消費」へと変遷してきました。そして、Z世代がメインストリームとなるニューノーマル時代の新たな消費行動はどのようなものになるのでしょうか。

学生を中心とするZ世代は、人間関係を育むのに欠かせない「共体験」の機会をコロナ禍によって大きく逸してしまいました。“リアルが充実している人”はリア充と呼ばれますが、特にZ世代はコロナ禍によって“リアルの非充実”というストレスを感じているのではないでしょうか。今後は、これを埋め合わせてくれるような、非対面型でもリアルの人間関係を充実させてくれるようなリア充支援型のサービス(商品・サービスやメディアプラットフォーム)が、なお一層Z世代からの支持を集めるのではないでしょうか。

(監修・協力=ジャーナリスト・古田大輔)

 

 電通PR トレンド予測レポート 編集部
   植野 友生 TOMOMI UENO

 情報流通デザイン局 コミュニケーションデザイン部

 今井 慎之助  SHINNOSUKE IMAI
 情報流通デザイン局 ソリューションデザイン3部 兼 コミュニケーションデザイン部
 高橋 洋平 YOHEI TAKAHASHI
 情報流通デザイン局 コミュニケーションデザイン部