2006年のM&A事情を総括すると・・・

M&Aの仲介を行うレコフの調べによると、2006年の日本国内のM&A件数は2775件と過去最高を記録、金額も前年比27%増の15兆212億円に達しました。件数の多さや手法の多様化、前例のないM&A案件が相次いだことなどからも、2006年は日本のM&A史の中でも最も興味深い年だったといえます。

逆風下で始まる

2006年はまず、ライブドアの堀江社長の逮捕や村上ファンド批判などM&Aの「負の側面」が強調される事件で幕を開けました。株主や従業員、取引先などを軽視し、M&Aを安易な金儲けの手段と捕らえたような彼らの手法に批判が集まり、金にあかせた強引なM&Aに対する見方も厳しくなりました。
これで、ITベンチャーや投資ファンドによるM&A熱も冷めるのではという見方も出る一方で、余剰資金を抱き込んだまま活用しない経営者や、既得権益に安穏とする旧来型企業に対して活を入れ、経営の効率化などに寄与するといったM&Aの「正の側面」が評価され、M&Aがごく普通の企業戦略の一つであるという認識も高まってきました。

エポックメーキングな王子vs北越

そんな中、世の中に大きなインパクトを与えたのは、製紙業界トップの王子製紙によるライバル、北越製紙への敵対的TOB(株式公開買い付け)でした。「和を持って尊しとなす」という日本企業の風土の中で、日本の大手企業による初めての敵対的TOBは、衝撃をもって受け止められました。グローバル化、業界再編の流れの中で、生き残りのために打って出た起死回生の策でしたが、北越製紙側の強固な反対にあい、あえなく断念せざるを得ませんでした。

TOBやMBOの増加

王子製紙の敵対的TOBで認知が高まったTOBですが、紳士服のAOKIとコナカによるフタタ争奪戦や、キリンビールがメルシャンをTOBで子会社化するなど、その手法はますます一般化しました。
さらに、牛角などを経営するレックス・ホールディングスやすかいらーくによるMBO(経営陣による買収)など、オーナー系の上場企業が株式をすべて買い取って、非公開化するといった動きも目立ち、MBOは前年比2・3倍の6900億円、TOBは3兆6000億円と6倍に急増しました。M&Aの手法も多様化しつつあります。

クロスボーダーM&Aの増加

2006年に目立ったのが大型のクロスボーダーM&Aの増加です。例えば東芝による米原子力大手のウエスチングハウスの買収、日本板硝子による英ピルキントンの買収。JTによる英ガラハーの買収、ソフトバンクによる英ボーダーフォン日本法人買収など巨額M&Aが相次ぎました。バブル時代の海外企業買収とは異なり、本業で国際競争力をつけるためのグローバル戦略としての同業他社買収が目立ちました。技術革新が進む中、M&Aによって、他社の経営資源をスピーディーに吸収し、迅速に国際競争力をつけようというのが狙いです。こうした動きは国内企業がバブルの混乱から立ち直り、改めて世界市場に目を向け始めた兆候として受け止められました。

投資ファンドの活発化

米投資ファンドスティール・パートナーズが明星食品に敵対的TOBを仕掛け、日清食品の対抗TOBへと発展したケースが話題となりましたが、国内外の投資ファンドの動きが活発化しました。特に国内業界のしがらみなどに縛られないこうした海外投資ファンドは大胆なM&Aに打って出て、業界再編の呼び水となることも少なくありませんでした。スティールなど投資ファンドは他にも国内大手企業の株を多く保有しており、今後の動向から目は離せそうにありません。

流通・食品業界

M&Aの動きが特に活発だったのは、食品や外食といった消費者分野の業種でした。食品は株式市場では薬品、化粧品とならび、ディフェンシブ(守り)の3品銘柄の一角として、景気のぶれに影響されにくい安定業種としてみられてきました。しかし、少子高齢化の進展で、競争は激化しており、「買収による規模拡大」に興味を示す経営者も少なくなくなってきました。そういった空気を読み取り、スティール・パートナーズなど一部の投資ファンドはこの業界を中心に投資を活発化させています。
アサヒビールによるベビーフードの和光堂買収、タリーズコーヒーの伊藤園傘下入り、山崎製パンによる東ハト買収、マルハグループとニチロの経営統合など、M&Aを契機として、業界の再編は急速に進展を見せました。今後も、厳しい市場環境を背景に、企業の生き残りをかけたM&Aは増加していくことが予想されます。

07年には外資による三角合併が解禁され、外国企業が自社株を使って日本企業を買う「アウトーイン」型のM&Aも増加することが予想されており、「M&A戦国時代」は先行きが読めない混沌の様相を強めています。