2026年10月1日、今年も多くの企業で内定式が開催されました。かつて内定式といえば、企業が学生に正式な内定を伝え、学生が入社意思を示す、採用活動の一つの「ゴール」として捉えられてきました。
しかし、就職活動の早期化や売り手市場が続く現在、内定式を取り巻く状況にも変化が見られます。複数の内定を得ながら就職活動を続ける学生もいれば、内定式に参加してから最終的な入社判断をしようと考える学生もいます。
こうした時代に企業は内定式をどのように捉え、どのようなコミュニケーションを設計すべきなのでしょうか。2026年の最新の企業事例と学生調査から、これからの内定式と採用広報について考えます。
「内定式に出れば、学生の就職活動は終わる」
そんな従来の前提が、少しずつ変わりつつあります。
2026年9月に発表された、2027年卒予定の学生809人を対象とした「内定式直前・採用実態に関する意識調査」(株式会社ABABA調べ)では、9月時点の学生の内定保有率は88.6%に達している一方で、29.8%が就職活動を継続していました。さらに、内定式への参加予定者(n=638)のうち21.3%が、「内定式参加後も内定を辞退する可能性がある」と回答しています。

また、内定式に対する学生の捉え方にも特徴が見られます。同調査では、「入社意思を固める場」と答えた学生が24.6%、「入社に値するか見極める場」が6.3%と合わせて約3割が、内定式を入社に向けた意思決定の機会として捉えています。

出典:「27卒 内定式直前・採用実態に関する意識調査(就活生・企業双方の実態調査)」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000147.000068609.html
調査対象:ABABAに登録している2027年3月卒業予定の大学4年生、修士課程2年生 計809人
調査期間:2026年9月10日〜9月14日
調査方法:インターネット調査
調査機関:株式会社ABABA(ABABA総研)
このような結果から、企業は、学生に対して「どんな人と、どんな仕事をし、ここでどんな未来を描けるのか」を伝え、「ここで働く」納得感を醸成する内定式の設計が求められてきています。では、実際に2026年の内定式では、どのような工夫が見られたのでしょうか。
2026年の内定式でも各社でユニークな取り組みが行われていましたが、その背景にある狙いを読み解くと、大きく3つの変化が見えてきました。
1つ目は、企業から内定者へ一方的にメッセージを届ける式典から、内定者同士や社員とのコミュニケーションを重視する場へと変化している点です。
・立食パーティー形式で、社長をはじめ、社員と内定者同士が交流する
・内定者を少人数のグループに分け、自己紹介や対話を生むプログラムを実施する
・内定者と経営幹部を含む社員が一緒になりラケットスポーツを楽しむ
これらの事例には、単に同期や社員と仲良くなるための懇親の場というばかりではなく、深い交流を通じて、これから一緒に働いていく人との関係を築きやすくする狙いが共通して見られました。
2つ目は、内定式で社長や経営層から企業理念・事業内容を説明するのではなく、体験を通して会社や仕事への理解を深める場へと変化している点です。
・社史をすごろく形式で学ぶゲームを実施する
・自社の工場見学の後に、新商品や新規事業をグループワークで考える
・自社の新規事業で生まれた商品を実際に見て、食べて、体感してもらう
学生は就職活動中に、企業説明会や採用サイトを通じて既に企業情報には多く触れています。だからこそ、内定式では、「何を大切にし、何をしている会社なのか」をリアルな体験を通じて伝える工夫が共通して見られました。
3つ目は、内定式を学生の入社意思の確認の場として完結させず、その先のキャリアや自分自身の未来について考えてもらう場へと活用している点です。
・10年後のなりたい姿を考えて、内定者一人一人が未来宣言を記入する
・AIを活用したキャリア診断や、未来予想図を作成してプレゼンする
さらに、内定式後から入社までの間へ視点を広げると、内定者が自分のキャリア形成ややりたいことに取り組めるような施策を行っている企業も増えています。
例えば、内定者向けの育成施策として海外留学や資格取得費用を支援したり、内定者にも社員同様にeラーニングの受講権限を与えたりなどが挙げられます。
これらの取り組みには、内定者本人の挑戦と成長を応援する企業姿勢を示しつつ、内定者自身が「どのように成長したいのか、この会社で何をしたいのか」を入社までにじっくりと向き合える環境を提供するといった工夫が共通して見られました。
パーティー形式、スポーツ交流、ゲーム、キャリア診断…など、内定式の事例だけを見ると、これからの内定式は、よりユニークな企画を用意しなければならない、と感じるかもしれません。
しかし、学生が知りたいのは、誰と、どのような仕事をし、そこで自分はどのようなキャリアを描けるのか、といった入社後の具体的な姿です。
そのために欠かせないのが、「その会社らしさ」です。新規事業への挑戦を大切にする企業であれば、実際の事業提案を題材にする、社員同士の距離の近さを強みとするのであれば、社員と率直に話せる場をつくるなど、その会社らしさが具体的に体感できるコミュニケーションの設計が重要になります。
では、自社らしい内定式をつくるために、広報はどのような役割を果たすことができるのでしょうか。
企業には、創業から続く歴史、事業、技術、社員、企業文化、社会に対する姿勢など、さまざまな「らしさ」の源泉があります。しかし、企業側が「私たちはこういう会社です」と一方的に語るだけでは、それが学生にとって働く理由になるとは限りません。
ここで活用したいのが、PRにおける「ナラティブ」の考え方です。
ナラティブとは、企業が伝えたいことだけでなく、生活者や社員、求職者などからどう語られたいのか、ステークホルダー側の視点も含めた「語り」です。
電通PRコンサルティングでも、企業の視点だけでなく、受け手側の立場や関係性から生まれる文脈を捉えることをナラティブの重要な要素としています。
ナラティブを軸とした採用広報であれば、
「私たちの会社は挑戦を大切にしています」
と企業が一方的に語るのではなく、
「自分はこの会社なら、こんな挑戦ができそうだ」
と学生自身が体験に意味付けできる状態をつくることです。
社員との対話、新規事業を考えるワーク、自社商品を体験する機会、内定後の挑戦を応援する制度――。こうした一つ一つの体験が、企業のナラティブを軸に設計できると、採用サイト、選考、内定式、そして入社までの採用広報全体におけるコミュニケーション活動に一貫性が生まれます。
だからこそ、この領域では、学生のリアルを知る人事と、企業のナラティブを担う広報が連携して設計することが重要です。
採用活動の最前線で学生と接してきた人事は、学生が何を不安に感じ、何を知りたがっているのかという相手のリアルな視点を持っています。一方、広報は、経営方針や事業戦略、社会から見た自社の立ち位置を踏まえながら、「自社は何を語るべきか」「それをどのような体験やメッセージに変換するか」を俯瞰(ふかん)して設計できる役割を担っています。
だからこそ、採用活動の前面に立つ人事と、企業のナラティブを担う広報が連携し、認知から選考、内定式、入社までの採用広報において一貫した「その会社らしい体験」をつくっていくことが、非常に重要です。
内定式は「採用活動の最後のイベント」ではなく、企業と学生が改めてお互いを理解し、「ここで働く」という選択に納得感をつくる大切なコミュニケーションの機会です。
内定式をきっかけに、自社の採用広報全体を、改めて見直してみてはいかがでしょうか。
<監修>
谷出 正直氏(採用コンサルタント)
https://business.nikkei.com/atcl/author/19/061800333/
電通PRコンサルティングでは、採用広報やインターナルコミュニケーションの視点から、企業と人材のより良い出会いと定着を支援します。まずはお気軽にご相談ください。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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