「今回のPR施策では、メディア掲載が50件、推定リーチは100万人でした」
広報・PRに携わる人なら、このような報告を作成したり、目にしたりした経験があると思います。掲載件数やリーチは、活動の広がりを把握する上で重要な指標です。しかし、それによって何が変わったのでしょうか。
メッセージは理解されたのか。組織への信頼や評価は変わったのか。人々の行動や社会に、どのような変化が生じたのか。測定しやすい数字が、そのまま本当に測るべき成果とは限りません。
では、広報活動の結果は、何を測り、どのように評価すればよいのでしょうか。
「広報・PR評価の国際潮流を読み解く」と題した本シリーズでは、こうした問いに答えるために、コミュニケーションの測定・評価に関する国際的な原則やフレームワークを、分かりやすく解説します。
中心となるのは、コミュニケーションの測定・評価に関する国際団体AMEC(International Association for the Measurement and Evaluation of Communication)が2025年に公表した「バルセロナ原則4.0」です。併せて、その原則を実際のプランニングや評価設計に落とし込む「統合評価フレームワーク(Integrated Evaluation Framework、IEF)」や広報評価の国際的な権威であるジム・マクナマラ教授が2024年に公表した『パブリックコミュニケーションのための測定・評価・学習マニュアル』(Jim Macnamara’s MEL Manual for Public Communication、以下「MELマニュアル」)も紹介します。
ではさっそく、バルセロナ原則4.0の全体像と15年間の進化、7つの原則、そして実務で押さえておきたいポイントについて解説します。
バルセロナ原則は、コミュニケーションの測定と評価に関する7つの基本原則です。
最初の原則は2010年、スペイン・バルセロナで開かれた第2回効果測定に関する欧州サミット(2nd European Summit on Measurement)で採択されました。その後、2015年に2.0、2020年に3.0、2025年に4.0へと改訂されています。
初版の策定にはAMECだけでなく、米国パブリックリレーションズ協会(PRSA:Public Relations Society of America)、米国のPR研究機関Institute for Public Relations(IPR)、国際的なPR業界団体International Communications Consultancy Organisation(ICCO)、Global Alliance for Public Relations and Communication Managementなど、複数の業界団体・研究組織が関わりました。こうした国際的な議論を基盤に、コミュニケーション環境と実務の変化を取り込みながら更新されてきました。
バルセロナ原則は、全ての組織に共通する指標や数値目標を指定するものではありません。何を重視し、どのような考え方を避けるべきかを示す指針です。従って、原則を読めば自動的に「この指標を測ればよい」という答えが得られるわけではありませんが、測定しやすい数字をとりあえず集めるような状態から抜け出す出発点になります。

図表1 バルセロナ原則の進化 ※AMEC発表の各バージョン公式資料、および『Barcelona Principles V4.0 eBook』に基づき筆者作成。
最新のバルセロナ原則4.0は、過去の原則を否定するものではなく、15年間の蓄積を経て、原則をさらに現在の実務へ適用しやすくするために進化したものといえます。
各原則の表現を明確にし、統合評価フレームワーク(IEF)の流れに沿って並べ直すとともに、ステークホルダーを単なる情報の受け手ではなく、価値を共につくる相手として捉える視点や、AIやデータを適切かつ透明性のある形で管理・活用する考え方を強化しています。
バルセロナ原則4.0は、次の7つの原則から構成されています。

図表2 バルセロナ原則4.0の7つの原則
出典:AMEC『Barcelona Principles 4.0』(2025年)。英語はAMEC公式原文、日本語訳は筆者。
7つの原則を読んでも、実務で具体的にどう取り入れればよいのか、すぐにはイメージしにくいかもしれません。ここからは特に迷いやすい目標設定、測定と評価の違い、アウトプットとアウトカム、広告換算の四つを取り上げ、ポイントを解説していきます。
原則1が求めているのは、施策を始める前に、誰にどのような変化を、いつまでに生み出したいのかを明確にすることです。
バルセロナ原則4.0のeBookでは、一般的な目標設定の考え方であるSMART(Specific=具体的、Measurable=測定可能、Achievable=達成可能、Relevant=関連性がある、Time-bound=期限が明確)に、「評価(Evaluated)」と「見直し(Reviewed)」を加えたSMARTERが示されています。
EとRが加わった背景には、コミュニケーションを取り巻く環境やステークホルダーの反応が、施策の途中でも変化するという考え方があります。目標を設定して終わりにするのではなく、実施中も達成状況やステークホルダーの反応を継続的に確認し、得られた知見に応じて活動やアプローチを見直すことが重要です。ただし、これは結果が出た後に、実績に合うよう目標を書き換えるという意味ではありません。
明確な目標がなければ、掲載件数やリーチが増えても、それだけで施策の成否を判断することはできません。まず考えるべきなのは、「どれだけ露出したか」ではなく、「誰にどのような変化を生み出したいのか」です。
バルセロナ原則4.0を実務に生かす上で、押さえておきたいのが「測定」と「評価」の違いです。この二つを混同すると、集めやすい数字を並べることが目的となり、広報活動がどのような成果につながったのかを説明できません。
マクナマラ教授のMELマニュアルでは、測定は関連するデータを収集・分析して何が起きたかを把握する過程、評価はその結果の価値を定量・定性の両面から判断する過程として整理されています。さらに、評価から得た知見を次の計画や戦略に生かす(ラーニング)までを測定と評価の重要な要素として捉えることが、MELの特徴です。
例えば、冒頭で挙げた「メディア掲載が50件、推定リーチが100万人だった」という結果を把握するのは測定です。そこから、メッセージが対象者に理解されたのか、認知や信頼が変化したのか、行動につながったのかを事前に設定した目標と照らし合わせ、広報活動がどのような成果に貢献したのかを判断することが評価です。
つまり、データを集めることは評価の出発点であり、終点ではありません。結果を判断し、得られた知見を次の改善や戦略に生かしてこそ、測定・評価の価値が生まれます。
バルセロナ原則4.0が強調しているのは、「アウトプット(Output)ではなくアウトカム(Outcome)を測る」という二者択一ではありません。AMECの公式eBookも、信頼できる測定と評価には両方が必要であり、アウトプットからアウトカムへ、さらにコミュニケーション活動がもたらした組織や社会へのインパクトへとつなげて捉えることが重要だと説明しています。
掲載件数、推定リーチ、インプレッションなどのアウトプットは、何を発信し、どの程度の露出や接触可能性を生み出したかを把握するために欠かせません。ただし、推定リーチやインプレッションは、情報を実際に見た人や理解した人の数を示すものではありません。情報が理解されたのか、信頼や態度が変わったのか、行動につながったのか、組織や社会の目標にどう貢献したのかを把握するには、その先のアウトカムやインパクトを見る必要があります。アウトプットを捨てるのではなく、その先の変化や成果と組み合わせて報告することが、原則6の趣旨です。
バルセロナ原則が策定当初から一貫して示してきた考え方の一つが、広告換算をコミュニケーションの価値として扱わないことです。広告換算は、掲載された記事のスペースや時間を広告料金に置き換えた数値ですが、編集記事と広告では情報の意味も受け止められ方も異なります。
広告換算は、編集記事の価値を広告料金に置き換える前提そのものに妥当性がなく、対象者の理解、信頼、態度、行動の変化も示しません。掲載件数やリーチなどはアウトプットとして把握しつつ、目指すアウトカムやインパクトとのつながりを確認する視点が重要です。
バルセロナ原則4.0は、測定・評価で重視すべき考え方を示すものです。一方、その原則を実際の計画や指標へ落とし込むために、AMECは統合評価フレームワーク(IEF)を提供しています。AMECは、バルセロナ原則をベストプラクティスの全体像を示す「俯瞰図」、統合評価フレームワーク(IEF)を組織で原則を適用するための具体的な手順と位置付けています。
図表3 バルセロナ原則4.0とAMEC統合評価フレームワーク(Integrated Evaluation Framework)の対応※許可を得て掲載。
統合評価フレームワークでは、組織目標とコミュニケーション目標を出発点に、活用する人員・予算・時間や実施内容、アウトプット、対象者の反応や変化、組織・社会へのインパクトまでを一つの流れで整理します。第2回では、目標から逆算して変化の道筋を考える「変化の理論(Theory of Change)」を起点に、統合評価フレームワークを使って、広報の成果を何に分け、どのように測るのかを具体的に紹介します。併せて、アウトプットとアウトカムを見分けるマクナマラ教授の「Doer Test」「Site Test」も取り上げます。
AIをはじめとするテクノロジーの進展により、広報・PRで収集・分析できるデータや指標は増え続けています。しかし、測定できることと、測るべきことは同じではありません。
だからこそ、目的を明確にし、ステークホルダーに生じた変化や組織・社会への貢献を捉え、その知見を次の改善や意思決定に生かすという基本原則に立ち返ることが重要です。
バルセロナ原則4.0は、単に新しい指標を増やすためのものではありません。データがあふれる時代に、「何のために、何を、どのように測るのか」を見失わないための指針といえるでしょう。
予告|広報・PRの成果は何を、どう測るのか。「広報・PR評価の国際潮流を読み解く」の第2回では、AMECの統合評価フレームワークを基に、アウトプット、アウトテイク、アウトカム、インパクトの違いを具体例とともに解説します。
参考資料・公式URL
[1] AMEC, Barcelona Principles V4.0 eBook (June 2025). https://amecorg.com/wp-content/uploads/2025/06/Barcelona-Principles-V4.0-eBook-Finalv-compressed.pdf
[2] AMEC, Integrated Evaluation Framework. https://amecorg.com/amecframework/
[3] Macnamara, J. (2024). Jim Macnamara’s MEL Manual for Public Communication. https://amecorg.com/wp-content/uploads/2024/11/Jim-Macnamaras-MEL-Manual.pdf
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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