TVer(ティーバー)やSNSの普及により、地方局発のニュースやドキュメンタリーが全国へ広がる機会が増えています。2026年の春の改編期では、関西や福島、北海道などで情報番組の増加・刷新もあり、地方テレビ局の役割や発信力が大きく変化してきているのを感じられます。
2026年5月には、総務省の有識者会議が地方民放の経営統合を可能にする「1局2波」の制度改正に向けて、規制緩和を促す提言をまとめ、8月31日に総務省は、地方民放の経営統合を可能にする「1局2波」の制度改正に向けた規制緩和案を電波監理審議会が了承したと発表しました。特に地方のテレビ局は、大きな転換期を迎えています。
本記事は【前編】と【後編】に分かれ、前編となる今回は「地方テレビ局の今」をレポートします。
「地域視点」で選ばれる時代へ。地方テレビ局の地元密着戦略
2025年秋から2026年春にかけて、日本各地の地方テレビ局では、「地域密着」を強化する自社制作の情報番組を刷新・新設する動きが見られました。平日朝は、長年親しまれた番組を刷新し、地域ニュースや暮らしに密着した情報を軸とする新たな番組を立ち上げる局もありました。
夕方・土曜の編成では、全国ネット番組を放送していた一部の時間帯を自社制作番組へ切り替え、月曜~木曜は全国ネット番組を維持しつつ、金曜夕方や土曜は、週末のお出かけや観光、グルメなど、地域の生活者に身近な情報や地域の魅力を発信する番組へ刷新する局も見受けられました。
また、TVerなどを通じて地方テレビ局の番組も放送エリアを越えて視聴できる環境が広がり、地域で制作したコンテンツが全国へ発信される機会も増えています。

地方局発のコンテンツを“局を越えて”届ける「ローカルコンテンツバンク」
ローカルコンテンツバンク(以下LCB)は、全国の民放テレビ局が制作した地域のニュースや情報コンテンツを横断的に集約し、テーマごとに再編集して配信プラットフォームへ提供する取り組みです。一度放送したコンテンツを「観光」「グルメ」「防災」などのテーマで再編集・再活用することで、放送エリアを越えて地域の魅力を発信し、新たな視聴機会の創出を目指しています。
LCBは、2023年に全国17社の地方テレビ局による提案をきっかけに実証実験が始まり、2024年度から本格始動しました。2025年度には全国63局が参加し、地域コンテンツの流通拡大に向けた取り組みが進められています。2026年7月にはLCBを活用した、「全国ローカルTV局 ニッポン“街ネタ”集めました。」がTVerで配信開始されるなど、LCBを活用したコンテンツの流通も始まっています。
プロジェクトの発起人である株式会社毎日放送 経営戦略局・齊藤浩史氏は、「ローカル局の“地域住民に向けた『内向きの地域性』に依存するビジネスモデル”は限界を迎え、これからは“地域に人を呼び込むインバウンドや関係人口の創出を促し、エリアの特性を生かすビジネスのハブになること”が新たな役割になる」と提言。その役割の中で、「LCBはあくまでコンテンツの流通を促進させるためのバンクであり、『情報の向きを逆転させる』=地域で培ってきたコンテンツを国内、さらには海外へ向けて積極的に発信していくことが鍵となる」と語り、ローカル局による情報発信の“目的”と“受け手”が変わるとしています。

※出典:TVer「ニッポン“街ネタ”集めました。」https://tver.jp/series/srt4s5zio9 (※現在はクローズ)
※出典:ローカルコンテンツが拓く、地域価値最大化戦略 ~Inter BEE 2025 レポート:https://www.screens-lab.jp/article/30808
ローカル局の経営改善の鍵となるか? 報道の多様性は確保されるか?「1局2波」を巡る議論
前述の通り、総務省では、地方テレビ局の経営基盤強化などを見据え、放送制度の在り方に関する検討を進めています。その議論の中でも注目されているのが、同一の放送対象地域内で、一つの事業者が複数の放送局を運営できるようにする制度整備(いわゆる「1局2波」)です。背景には、人口減少や広告市場の変化、視聴スタイルの多様化などにより、地方テレビ局を取り巻く経営環境が厳しさを増していることがあります。
こうした状況を踏まえ、経営資源を集約することで、地域ニュースや番組制作体制を維持・強化し、持続可能な地域メディアにつなげることが期待されています。一方、現在は「マスメディア集中排除原則」により、情報の多元性・多様性・地域性を確保するため、同一地域で複数の放送局を支配することは原則認められていません。
「1局2波」を巡っては、情報や報道の多様性への影響に加え、「劇的な経費削減は難しい」「収支改善につながるかは不透明」といった慎重な意見もあり、制度設計や運用の在り方について議論が続いています。
【参考:各地域を代表する朝の番組一覧】
各地域は各地域を代表する朝の情報番組は以下の通り(平日朝6時台の番組を記載)。赤枠が地方局独自の番組となっており、特に日本テレビ系列、テレビ朝日系列は独自番組が多いことが分かります。
出典:https://bangumi.org/epg/td?ggm_group_id=42
番組の視聴率は独自番組が強い地域も
朝6時台のリアルタイム視聴率では、関西圏では朝日放送「おはよう朝日です」、中京圏では名古屋テレビ「ドデスカ!」が、全国ネット番組と競合する同時間帯でトップとなっています。また、「ドデスカ!」は2026年上期の全日帯平均視聴率でも、個人全体・世帯共に月曜~金曜の同時間帯で1位を獲得しました。「おはよう朝日です」は46年以上、「ドデスカ!」は20年以上続く独自の番組として放送されており、地域の朝の顔として長年親しまれています。地域に根差した番組づくりが、長年にわたり視聴者の支持を集めていることがうかがえます。
ローカルニュースが全国へ広がる事例
地域発のニュースは、反響や話題性によって、全国ニュースで取り上げられるケースがあります。大阪市に本社を置く株式会社ミラタップが実施した、AI社員の入社を発表する「AI入社式」もその一例です※。2026年4月の入社式当日は、NHK大阪放送局、読売テレビ、毎日放送など複数の在阪メディアで取り上げられ、大きな話題となりました。その後、NHKの全国ニュースでも紹介されたほか、TBSテレビ「ひるおび」では系列局の映像素材を活用して紹介されるなど、ローカルニュースが全国へ広がる事例となりました。
また、地域発のニュースが全国へ広がる経路は、テレビの全国ニュースで放送されることだけではありません。「TBS NEWS DIG」のように、系列各局が取材した地域ニュースを共通のプラットフォーム上でテキストや動画として配信する取り組みも広がっています。
こうした取り組みにより、地方で生まれたニュースが放送エリアを越えて全国へ広がり、地方メディアが「全国波及の起点」となる場面も増えています。
※出典:ミラタップオフィシャルブログ
まとめ:変化する地方テレビ局、押さえておきたい3つの視点
これまでの話をまとめると、地方テレビ局を取り巻く環境が変化する中、押さえておきたいポイントは大きく3つあります。
一つ目は、地域密着型の自社制作番組の新設・刷新です。地域ニュースや暮らしに密着した情報へのニーズが高まる中、地方テレビ局では「地域視点」を重視した情報発信を強化する動きが見られます。
二つ目は、LCBによる地域の魅力の「外」への発信です。地方テレビ局が制作したコンテンツを集約・再編集し、配信する新たなプラットフォームの登場によって、地域の情報を放送エリアを越えて届ける新たな流通モデルが進展しています。
三つ目は、「1局2波」を巡る制度議論です。地方テレビ局の経営基盤を強化し、持続可能な地域メディアにつなげることへの期待がある一方、情報・報道の多様性をいかに確保するかが、今後の重要な論点となっています。
このように、地方テレビ局は、地域に密着した情報を届ける存在であると同時に、地域の情報をより広いエリアへ届ける存在へと、その役割を広げつつあります。
地方テレビ局へのアプローチを検討している方は、ぜひ電通PRコンサルティングまでお問い合わせください。
後編では、読売テレビ「テッパン朝ライブ じゅーっと!」のチーフプロデューサーを務める吉田聖氏へのインタビューを通じて、ニュースの選定基準や企業に期待する情報発信、地域外企業との向き合い方を紹介。企業は地方局とどのような関係を築けば継続的な取材・発信につながるのか、地方局との新しい関係づくりを探ります。