コミュニケーションデザイン局 シニアコンサルタント 大川陽子

CSR

5月5日のこどもの日の各社新聞社説。「未来のために、貧困状況にある子どもたちの現状をなんとかすべき」という論調が目立った。メディアにおいても多く取り上げられるようになった「子どもの貧困」問題。『日本で貧困?』『企業活動には関係ない?』と思われがちなテーマであるが実際は…?

「子どもの貧困」とは

現況を捉えるための一つの指標として、厚生労働省の国民生活基礎調査で出されている「子どもの貧困率」がある。「子どもの貧困率」とは、全国の平均的な所得の半分に満たない所得の世帯で暮らす17歳以下の子どもの割合とされる。2012年時点で16.3%(前回比0.6ポイント増)で、年々増加傾向にある。また、ひとり親世帯の貧困率は5割を超える。ちなみに「貧困線」(等価可処分所得(=いわゆる手取り収入)の中央値の半分)は122万円となっている。
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出典:平成25年 国民生活基礎調査 貧困率の年次推移(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf

これらのデータは、私たちが当たり前だと感じている教育の機会や衣食住が確保されない子どもたちが存在することを示している。ただ、なかなか腑に落ちるかたちでは捉えづらい。『周りをみても、子どもの貧困と言われてもピンとこない…』という声が聞かれるのも事実である。それは、この問題が経済的視点のみならず、子どもたちの精神的負担や、親たちのストレスによる虐待などさまざまな要因が複雑にからみあってくる〝見えづらい問題〟であることにも起因している。ただ、放っておくと、いろいろな意味で将来世代が委縮していくということは押さえておくべき視点だろう。

 

「子どもの貧困」は社会的損失に

企業にとって、少子高齢化が加速するなか、人材獲得や市場の拡大は大きな課題。実は、これらの観点にも関わってくるのが「子どもの貧困」である。

日本財団が2015年12月に発表した「子どもの貧困の社会的損失推計」レポートでは、子どもの貧困を経済的視点からとらえるべく、子どもの貧困の放置による経済的影響の推計を行っている。

2013年10月時点に15歳で、生活保護世帯や児童養護施設、ひとり親家庭の子ども約18万人を対象に推計。貧困ではない世帯より高校中退率が高く、大学進学率が低いことなどが就職に影響するとし、現状のままのシナリオと、未就学児への教育支援などを行った場合の改善シナリオの2通りを比較している。推計の結果、差分を社会的損失として算出すると、子どもの貧困を放置した場合、15歳の子ども1学年だけで経済損失は約2.9兆円、政府の財政負担は1.1兆円増加するという試算がでている。「支える」側になるはずの将来世代が、「支えられる」側になってしまう恐れがあるということになる。

※出典:「子どもの貧困の社会的損失推計」レポート 社会的損失の推計結果の概要(日本財団)

http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2015/img/71/1.pdf

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※「改善シナリオ」は、現状を放置した場合に比較して、大卒者の増加や就業形態の改善によって生涯所得が増加、所得増に伴い個人による税・社会保障費用の支払いが増えることで、国の財政負担がその分軽減されることになる。

 

今回のような推計もあくまでも指標の一つではあるが、社会的な負担による経済的な影響が何らかの形で社会全体に反映してくることが予測される。企業活動から捉えると、人材獲得や新たな市場の創造をはじめ、経営的な視点で「子どもの貧困」問題を捉えていく必要がありそうだ。

 

社会課題である「子どもの貧困」に対して、企業はどう取り組んでいくべきか

政府をはじめ、自治体等の取り組みも進んでいる。2013年6月、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が可決。2015年4月には「子供の未来応援国民運動 趣意書」が出され、安倍総理を筆頭に政府をはじめ自治体、経済界からは日本経済団体連合会、日本商工会議所、日本労働組合総連合会、マスコミ、NPO等支援団体からなる発起人が名を連ねている。国民運動の推進事務局は、内閣府、文部科学省、厚生労働省及び日本財団が担う。2015年10月からは「子供の未来応援基金」が創設され、広く民間からの支援も呼びかけられている。各地においても関心度合いは高まりつつあり、自治体、企業、NPO等各主体を巻き込んだ動きが活発になることが想定される。

(『子供の未来応援プロジェクトホームページ 』http://www.kodomohinkon.go.jp/policy/

③

 

子どもの貧困対策には「教育支援」「経済支援」「生活支援」「就労支援」の4つの支援が掲げられているが、企業の関わり方はさまざま。例えば合同会社 西友は、社会貢献活動助成プログラムの一環として、若者就労支援を行っている認定NPO法人育て上げネットを助成し、低所得世帯のニートの若者を「西友パック」として就労支援を行っている(2015年12月1日 プレスリリースより)。労働環境や働き方に対する社会的関心が高まっている状況を踏まえて、小売業として取り組む意義は大きい。そして、社会貢献的な要素のみならず、事業の継続性、安定性にもつながってくる要素である。日本ケロッグ合同会社では、CSR活動として展開している朝食提供支援プログラム「Breakfasts for Better Days™」の一環として、NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークが運営する「こども食堂」に子ども向けシリアルの無償提供を行っている(2016年2月10日 ニュースリリースより)。食を提供する会社として、「生活支援」につながる取り組みを展開することはストーリーが明確であり、ステークホルダーとのリレーション強化につながる。また、NTTドコモでは、社会貢献の取り組みの一つとして、国民運動の一環で設置された「子供の未来応援基金」へdポイント及びドコモポイントを利用して寄付することができる仕組みを提供している(2015年12月21日 ニュースリリースより)。ポイント利用は広く生活者を巻き込むきっかけづくりとなり、すそ野を広げるコミュニケーション策としても捉えられる事例だろう。

 

持続可能な企業経営を見据え、中長期的な成長戦略としての事業の安定性、人材や地域を含めた将来投資、CSR推進など様々な視点を踏まえつつ、改めて事業活動と社会課題との関係性を見直したい。今、喫緊の社会課題として挙げられるテーマの一つが「子どもの貧困」である。