2024年9月11日(水)、慶應義塾大学 SFC研究所とともに、「個人投資家を味方に! 魅力的な企業に見られるためには?~人的資本・非財務情報のコミュニケーション戦略~」をテーマとしたセミナーを開催しました。

今回のセミナーでは、「非財務資本を企業価値と結びつけるコミュニケーションとは?」「個人投資家に魅力的な企業と見られるためには?」に関する調査・研究結果の発表、ESG経営やコーポレートファイナンスを専門とされる慶應義塾大学 総合政策学部 保田 隆明(ほうだたかあき)教授による「企業価値向上に向けた情報戦略」について、IR優良企業大賞を受賞されている株式会社丸井グループIR部長の沓掛 奈保子(くつかけなほこ)氏による「丸井グループのIR活動について」の講演が行われました。当日は、100人近くの企業・団体の広報・IR担当者の皆さまに来場いただきました。

本レポートでは、各セッションのポイントを中心にご紹介します。

 

オープニング
企業広報戦略研究所 所長 阪井 完二

 

企業広報戦略研究所所長の阪井より、近年、特に注力している研究テーマ「企業価値」について紹介がありました。「企業価値」とは、株主をはじめとするステークホルダーからの適切な成長期待に基づく「経済的価値」と、環境問題や社会課題への対応力に基づく「社会的価値」の両方から成り立つと定義。この二つの価値をうまくバランスを取ってステークホルダーに企業価値を伝えている企業事例や、バランスを欠いてCEOが解任に至ったケースなどを説明。

 

 

この後のセミナーでは、二つの価値のバランスをどのように取り、どうステークホルダーに伝えるかに焦点を当て、企業側からは「非財務資本を企業価値に結びつけるために、どのような情報開示やPR活動が重要か?」、投資家側からは「個人投資家からみて魅力的な企業見られていくために、どのようなコミュニケーションが必要か?」を探っていくと、開会の言葉を述べました。

 

 

個人投資家にとって魅力的な企業とは?
企業広報戦略研究所 上席研究員 増田 勲

 

次のセッションでは、企業広報戦略研究所上席研究員の増田から、個人投資家が企業の未来をどう見極めているのか、非財務情報をどうコミュニケーションしたらよいのかなどについて、調査結果を基に説明しました。

保田教授監修の下で開発した、個人投資家が重視する非財務情報を明らかにする「非財務クロスバリューモデル」の紹介、さらにC.S.I.による「個人投資家調査2023」の結果から、投資に直結する心理として「応援」が最も高い結果であること、応援したい人が興味を持つ情報として「企業価値向上のための経営計画の説明」や「コンプライアンス順守に向けた取り組み」など社会・関係資本や人的資本が重視されることなどを紹介しました。

非財務クロスバリューモデル:
https://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-topics/20240415.html

 
 

 

 

最後に、個人投資家からみて魅力的な企業に見られるためのコミュニケーションのポイントとして、以下の3点を強調しました。

1.応援される企業になること。
2.相手目線でコミュニケーションを考えること。
3.「ひと」(リーダーシップ)、「イシュー」(ソーシャルイシュー対応)、「基盤」(安定性収益性)を意識すること。

 

 

企業事例:株式会社丸井グループのIR活動について
株式会社丸井グループ IR部長 沓掛 奈保子氏

 

続いて、株式会社丸井グループIR部長 沓掛氏より、20年間にわたる「企業文化の変革」を人的資本の取り組みと位置付け開示している、同社のIR活動に関して、“手挙げ文化”、“グループ間職種変更”、“パフォーマンスとバリューの二軸評価”など、具体的な社内施策を交えながら説明がなされました。

また、今後のIR活動については、従来の機関投資家向けに加え、個人投資家や社員、将来世代へも情報発信を広げていきたいとの抱負を表明されていました。

多様なステークホルダーの向けた具体的な施策としては、“決算情報や会社の取り組みのYouTube配信”、“社員の株主意識を醸成するためのイベント”などの施策が紹介され、多くの参加者の関心を集めていました。

 

 

企業価値向上に向けた情報戦略 
慶應義塾大学 総合政策学部 教授 保田 隆明氏

 

慶應義塾大学 保田教授には、企業価値向上に向けた情報戦略についてアカデミックな視点からお話いただきました。

日本企業は欧米企業と比べ“ROE(利益/株主資本:株主資本利益率)が低い”という課題があり、ESGの推進がその解決になると、国内外のケーススタディを交え紹介されました。

また、人的資本経営では、多様性の確保、働き方の整備、エンゲージメント、リスキリングなど個別に議論するのではなく、パーパスを軸として活動することの重要性についても触れ、これらを束ねる一気通貫したストーリーを発信することの大切さを強調されました。

 

 

クロージング 
株式会社電通PRコンサルティング 代表取締役社長執行役員 山口 恭正

 

電通PRコンサルティング代表取締役社長執行役員 山口からは、このセミナーのまとめとして、「経済価値」はある意味「財務価値」であり、「社会価値」は「非財務価値」に近しい存在である。また「財務価値」は過去の結果を表すものに対して、「非財務価値」は未来を表すものでもあるとの認識を示しました。そして「経済的価値」と「社会的価値」の二つをバランスよく循環させるには、CEOのリーダーシップと、現場から生まれるカルチャーが重要であると述べました。

また、パーパスは定めたら終わりではなく、具体的に二つの価値をどのように循環させるかの視点が大切であり、そのためには経営環境の情報収集や方針の設定が求められると指摘し、セミナーを締めくくりました。

 

 

その後の質疑応答では、参加者から多くの質問を頂戴しました。
「サステナビリティへの対応によって個人投資家にはどのような影響があるか?」「人的資本経営の開示に乗り気ではない経営層に対して、どのように説得していくべきか?」「社内リソースも限られている中、どういうふうに個人投資家にアプローチしていくべきか?」など、時間の許す限り回答させていただきました。

当日の講演資料や、調査結果、講演依頼等については下記までお問い合わせください。
企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内) info-csi@dentsuprc.co.jp