各国の政治・経済動向が相互に影響を与えるグローバル社会において、諸外国の政策を早期に把握する必要性が高まっています。こうした背景を受け、当社は米国最大のアジア研究を専門としたシンクタンク「全米アジア研究所」(The National Bureau of Asian Research、以下NBR)と米国の対日経済政策の分析、対応・体制強化に関する協力関係を構築し、『ワシントン政策分析レポート』 を作成しております。
本レポートは、米国のアジア外交専門家と、当社のパブリックアフェアーズ専門家において4~5月にオンライン開催された経済政策ラウンドテーブル(円卓会議)や関係者ヒアリングに基づいております。 『ロシア・ウクライナ危機 ~米国とアジアへの危機』と題した今回のレポートでは、ロシアのウクライナ侵攻による日本におけるエネルギー安全保障への影響、中国の役割と利害関係、米国の通商・エネルギー政策、経済・金融の見通しについてまとめております。

 

■エグゼクティブサマリー
 
本レポートは、2022年5月に米国のアジア外交専門家と、電通PRコンサルティングのパブリックアフェアーズ専門家の間で協議された内容に基づくレポートである。
日本企業が特に注目すべき点として次の3点が挙げられる。
 
1.戦争が終わったとしても、企業はロシアでのビジネス再開はすぐにはできない
戦争が終われば、グローバル企業がすぐにロシアにおいてビジネスを再開させることができるかを予測することは難しいが、戦争の長期化はロシアの購買力低下をもたらしている。たとえ和平交渉があったとしても、プーチン政権への信頼や社会・政治・経済の安定性が担保されなければ、企業がロシアに戻るのは何年もかかる可能性がある。戦争ではさまざまな事態が起こり得るので、企業は過去の経験をもとに戦時、戦後の対応を短期的・長期的な視点で考えていく必要がある。
 
2. ウクライナ戦争において、企業はレピュテーションリスクへの対応も必要
デジタルやソーシャルメディアの時代における戦争では、グローバル企業は「Naming and Shaming(名前をさらされて、批判される)」というレピュテーションリスクに対処するために、危機管理コミュニケーションを戦略的に考える必要がある。例えば、ロシアへの投融資を継続する場合、同時に人道支援やCSR活動を行うなど、バランス感覚が求められる。企業としてのバリューは何か、消費者に何を提供できるかなどの企業理念や、緊急事態や危機においてどのようなコミュニケーションで対応していくかについて、情報収集と共に、深く考えていく必要がある。
 
3. 供給網のさらなる分断、エネルギー政策の揺れ戻しと悲観的な日本経済の回復
新型コロナが招いたサプライチェーンの分断から回復を待たずして起きた今回の危機は、運輸/物流・人流の動きに更なる混乱を招いている。半導体、重要鉱物、農作物の流通不安、エネルギー価格高騰の中で、日本の製造、食品・小売、エネルギー業界は、値上げなどのリスクに直面している。取引先や顧客などのステークホルダーの理解を得るため、トップによる企業姿勢の発信が重要である。
また、エネルギー安全保障の重要性が浮き彫りとなり、脱炭素シフトにも揺れ戻しが生じている。エネルギー自給率の低い日本は、ドイツのようにしたたかに、独自のエネルギーミックスの考え方や産業政策が求められる。
そして、これらの現実は、先進国で唯一コロナ前のGDP水準回復を果たしていない日本経済の持ち直しに悪影響を及ぼしており、経済や国民生活の回復についての見通しは悲観的と言える。