各国の政治・経済動向が相互に影響を与えるグローバル社会において、諸外国の政策を早期に把握する必要性が高まっています。こうした背景を受け、当社は米国最大のアジア研究を専門としたシンクタンク「全米アジア研究所」(The National Bureau of Asian Research、以下NBR)と米国の対日経済政策の分析、対応・体制強化に関する協力関係を構築し、『ワシントン政策分析レポート』 を作成しております。

本レポートは、米国のアジア外交専門家と、当社のパブリックアフェアーズ専門家において12月にオンライン開催された経済政策ラウンドテーブル(円卓会議)に基づいております。
『米国の対アジア政治情勢』と題した今回のレポートでは、日米間の貿易・投資の見通しを始め、今後の米中通商関係動向、米国の交通インフラ政策・気候変動政策および政治情勢のゆくえについてまとめております。

 

■エグゼクティブサマリー

1. 2022年のアジアは政治の季節~米国は安全保障を確実にできるか
2022年は世界的に選挙の年、政治の季節となる。まず、米国にとっての東アジアの安全保障に直結する韓国大統領選挙が3月にある。そして、米国にとって地政学的、とくに軍事面で重要な位置にあるフィリピン大統領選挙も関心が高い。5月にオーストラリア、11月には米中間選挙、台湾での地方選挙がある。さらに、秋には習国家主席が3期目続投を狙う第20回中国共産党大会が行われる。米国は東アジアにおける安全保障の不確実性を見極めるため、日本の岸田政権が安倍政権のように長く続くのか、従来の政権のように1年で終わるのかについて注視している。

2. 米国は大規模な経済協定ではなく、個別の交渉を進める
米国がCPTPPやRCEPに加盟することはない。一方で、日米で通商の枠組みに関する話し合いは始まっていて、11月にサプライチェーンや産業競争力を高めることでインド・太平洋地域において中国に対抗していくという「日米商務・産業パートナーシップ」が設立された。バイデン政権は中国に対して米国が有利となる貿易の枠組みである「インド太平洋経済枠組み」も模索し、ここにインドをうまく巻き込もうと考えている。まだ具体的な動きはないが、米政府としては、これらは協定ではなく、柔軟なものとする意向を持っている。

3. したたかな米国企業は中国とのビジネスに前のめり
対中強硬路線のバイデン政権の意向と異なり、米国企業は中国とのビジネスの拡大を狙っている。中国への輸出規制を早く解除してほしいというロビイングがワシントンでは盛んに行われている。実際に、コロナ禍において、米中の貿易量は伸びている。一方で、日本は対米貿易を有利に進めようにも、現在の米中コーカスとの関係作りがコロナによる渡航制限もあり、あまり進んでいない。米国では議員の退任や入れ替えが起きており、日本贔屓の議員との長期的な関係作りが課題と言える。