企業広報戦略研究所(C.S.I.)は、データドリブンな企業ブランディングのこれからを考える一助として「広報会議」誌上で「データで読み解く企業ブランディングの未来」と題した連載を2020年7月から開始しました。第17回(12月号)は、「これからの広報戦略に必須の社会価値視点とは」をテーマに解説しています。
このトピックスでは、本誌に書き切れなかった「ESG/SDGsに関する意識調査」の深掘りに加え、10月初めに日本広報学会で発表した最新の研究結果についてもご紹介します。


 

企業にとってもはや見過ごせないESG/SDGsの認知の広がり

生活者によるESGの認知率が上昇していることは今回の「広報会議」の誌面でも取り上げましたが、当研究所が2021年6月に行った「ESG/SDGsに関する意識調査」によると、SDGsの認知率はこの1、2年でさらに大きく上昇しており、認知の拡大が急激に進んでいる様子がうかがえます。2020年の結果と比較すると2倍近くの76.7%が認知していた上、3割(31.0%)はSDGsについて「詳しく知っている」結果となりました。

ESGやSDGsは、今や一般生活者にも広く浸透し、価値観に大きな影響を与えだしているといえます。

生活者による認知と期待のギャップ、その埋め方とは?

さて、ここからは改めてESGに話題を戻し、今回の調査結果について解説を進めます。
今回の「広報会議」の誌面では、生活者が企業に対して「今後期待するESG項目(S:社会)」について取り上げました。それでは、企業が行っている取り組みはどの程度生活者に伝わっているのでしょうか?
ESGのうちS:社会に関する結果では、生活者が「認知」しているESG項目と、生活者が企業に「期待」しているESG項目を比較すると、トップ2項目はどちらも同じく、1位「消費者にとってわかりやすい表示・説明」、2位「従業員にとって健康・安全で、働きやすい環境の整備」という結果となりました。本調査は一般生活者の回答ということもあり、“商品やサービスの表示”や“従業員の環境”など、より生活者に身近な項目が上位となりました。

また、それに次ぐ3位では「認知」と「期待」の順位に差異が現れており、「生産者の労働環境や生活への配慮(フェアトレードの推進)」は、認知ではS:社会の8項目中6番目ですが、期待する項目では3番目と上位に入っています。生活者が期待するESG項目がまだ伝わっていない部分があると推察されます。

今回の分析では、期待と認知のギャップが大きい項目の一つとして「生産者の労働環境や生活への配慮(フェアトレードの推進)」が浮かび上がりました。背景には企業の取り組みが生活者へまだ十分に届いていない可能性が推測でき、“その要因としては大きく二つが考えられます。
一つ目は、企業がESGに関するアクションをそもそも実施していないこと。二つ目は、アクションは実施していても、コミュニケーション不足により届いていないことです。
それではこの状況を打破し、ギャップを埋めていくためには何が必要なのでしょうか?
前者であれば、自社のファクトの棚卸しを行い、事業と関連性があるアクションを実行、発信していくことが重要です。また後者であれば、アクションを効果的に伝えていくために、株主だけにとどまらない幅広い視点でステークホルダーを捉えてコミュニケーションを図ることが必要となります。

ESGに関する取り組みと、企業の価値・ブランドの関係性

当研究所は2021年10月に開催された日本広報学会による第27回研究発表全国大会に参加し、「ESG/SDGsに関する意識調査」を基にした研究結果を発表しました。
今回の研究では、ESGの取り組みと“生活者による企業の評価”との関係性を新たに分析することで、「ESGの取り組みは企業の価値・ブランドに寄与する」ということが明らかになりました。最新の研究内容について一部ご紹介します。

今回の「ESG/SDGsに関する意識調査」では、企業のESGへの取り組みを聴取するために「E:環境」「S:社会」「G:ガバナンス」において各8項目、計24項目を設定し調査を行いました。

今回行った分析により、企業のESGに関する取り組みは企業の価値・ブランドと関係があることが確認でき、企業の価値(今回の研究においては、魅力(ブランド)・経済的価値・社会的価値の三つにて定義)には、Gのガバナンスに関する項目が最も影響を与えていることが分かりました。
そこで、さらに「ガバナンス」に生活者の潜在意識が偏る要因を探るべく、ESGの24項目の因子分析を行ったところ、以下の三つの因子が確認されました。

因子❶ 「インテグリティ」:企業の誠実さを求める傾向
因子❷ 「コンシューマー」:主に消費者にどのような対応をとるかといった消費者目線の傾向
因子❸ 「サステナビリティ」:物事を持続的にする企業の取り組みを後押しする傾向

これらを基に分析を行った結果、ガバナンスの項目を多く含む因子①が、魅力(ブランド)・経済的価値・社会的価値の全てで関係し、3因子の中で最も関係性が深いことが分かります。従って、生活者は企業の価値を評価する際、潜在的に「インテグリティ」=企業の誠実さを重視しているということが明らかになりました。

当研究所は今後もESGと企業価値や生活者の行動との関係性などについて分析を推進し、情報発信を行ってまいります。
さらに詳しい内容のお問い合わせやご相談等につきましては、お気軽にご連絡ください。

執筆

西山友佳子
企業広報戦略研究所 主任研究員
食品、化粧品、クレジットカード業界などの領域において、データを活用したプランニングやコーポレート・コミュニケーション戦略の立案などを担当。企業広報戦略研究所では、顧客エンゲージメントに関する研究に従事。

 


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