企業広報戦略研究所(C.S.I.)では、「広報会議」にて「データで読み解く企業ブランディングの未来」と題し、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひもとく指南役として2020年7月より連載を開始しました。第16回(11月号)は、「広聴の視点でオウンドメディアを活用する」をテーマに解説しています。
本トピックスでは、内容をより深掘りし、今年春にSDGsをテーマとしたオウンドメディア『ReTACTION』を立ち上げた龍谷大学の新しい取り組みも併せてご紹介します。


 

作って終わりではないオウンドメディア、今後求められる視点とは?

当研究所が2021年6月に行った調査によると、生活者が企業に魅力を感じた際にとった行動を問うたところ、「魅力を感じた企業や、商品・サービスのウェブサイトを閲覧した」と答えた人は26.0%で、全選択肢のうち2番目に多いという結果になりました。
本編連載では、この事実を基に、オウンドメディアを生活者が感じた魅力をより深めてもらうための受け皿と位置付け、その活用の視点と活用法について述べました。
この記事では、これらについてさらに深めたいと思います。

<生活者が企業に魅力を感じた結果とった行動>

調査期間:2021年6月23日(水)~6月30日(水)
調査対象:全国の20~69歳の男女
調査方法:インターネット調査
企業広報戦略研究所調べ「魅力度ブランディング調査」

 

■「アクセスデータの取得」というメリット

企業や団体・組織がウェブサイトなどのオウンドメディアを活用するメリットとして長らく注目されてきたのは「企業が伝えたいことを自らの言葉で表現し、発信できる」点のみにとどまってきました。
これはおそらくウェブサイトなどのオウンドメディアの制作が旧来の広報における広報誌などの印刷物の制作のノウハウをもって行われてきたことと、広報誌による情報発信のメリットがパブリシティによる情報発信のメリットと対比されて語られてきたことに起因するものと思われます。
オウンドメディアが「企業が伝えたいことを自らの言葉で表現し、発信できる」メリットを持つことはもちろん、現代においても決して誤りではないのですが、ウェブサイトなどのデジタルオウンドメディアが、広報誌などの印刷物オウンドメディアにはないメリットを持っていることは案外気付かれていません。

そのメリットとは「アクセスデータの取得」です。ウェブサイトなどのデジタルオウンドメディアの運営を通じて収集されるアクセスデータを収集できることこそ現代のオウンドメディア最大のメリットであり、これを通じた生活者の意思・本音の把握は現代の広報にとって欠かすことのできない要素であると言えるでしょう。

企業・団体・組織で広報に携わっている方であれば自組織のウェブサイトのどのページがよく見られているのか、あるいは自組織のソーシャルメディアアカウントの投稿のうちどの投稿に多くの「いいね!」がついているのかは大なり小なり把握されていると思います。
これらはただ見ているだけでは単なる数字にすぎませんが、これらの数字がウェブサイト上のページやソーシャルメディアでの投稿についての閲覧者の評価であると捉えればどうでしょう?単なる数字を超え、生活者の意思・本音が可視化されたものに見えてくるかもしれません。
実際にオウンドメディアに携わっている方であれば「先月更新したウェブページはたくさん見られたから今月も同じ題材でページを作ろう」であるとか「昨日の投稿はいいね!がたくさんついたから今日も同じ語り口で投稿しよう」などといったことをされた経験があるかもしれません。これこそが生活者の意思・本音を情報発信に活用している例であると言えるでしょう。

こういった発想はオウンドメディアでの情報発信のみならず、ニュースリリースやリスクコミュニケーションなど、企業・団体・組織によるコミュニケーションのあらゆる場面で活用できます。
オウンドメディアを通じて生活者の意思・本音を広く聴き(広聴)、それを通じてあらゆる情報発信を改善する―オウンドメディアは「広聴」のエンジンとして活用できるのです。

 

■どのように進めるか

「広聴」を基点としたパブリックリレーションズ活動を行う場合、オウンドメディア運営はどのように進めるのが良いのでしょうか。
まずオウンドメディアが担う役割を明確化させることから始めるべきでしょう。
オウンドメディアを運営することによって生活者とどのようなコミュニケーションを行うのかを定義します。もちろんこの「コミュニケーション」の中には情報発信によって達成したい関係構築のほか、意思・本音を取得するという視点も盛り込まれるべきです。

よくある間違ったやり方として、いきなり「どのようなコンテンツを発信するか」を詳細に考えてしまうことが挙げられます。
オウンドメディアを活用するとなったとたんに「これこれこういうコーナーを設けてこれこれこういう人にインタビューをする。これこれこういう情報をクイズ形式で発信して、正解者にプレゼントを送付する」などといったアイデアを10も20も考えてしまうケースがあります。
これはほんとうに、うまくないやり方です。

オウンドメディア活用は企業・団体・組織のパブリックリレーションズ活用の一環であり、事業活動ですので、なぜそれをやらねばならないのか、それを通じて何を達成するのかが定義されないままこういったアイデアを並べ、目的は後付けで考えるというやり方は許されないでしょう。

 

■継続するための仕組み

コンテンツアイデアだけを挙げることから始めるオウンドメディア活用にはもう一つの問題点があります。
それは継続して情報発信するという視点が欠けがちということです。
オウンドメディアはいったん開設されると継続して運営されねばなりません。最初に考えた20のアイデアを発信し尽くしてしまえば終わり、というわけにはいかないのです。
ですので、どのような体制・枠組みでオウンドメディアを継続させてゆくのかもまた最初のうちに考えておかねばなりません。

体制や枠組みをつくってそれを運用していくことはしばしばコンテンツのネタを考えて発信することとは全く異なるスキルを要します。そのためこれらを何らかの形で分業させることも必要でしょう。コンテンツ編集にたけた外部パートナー、継続したメディア運営にたけた外部パートナー、そして取得できたアクセスデータを正確に分析し、広報課題につなげることができる外部パートナーとのコラボレーションも積極的に検討すべきです。

連載誌面では広聴の視点を最大限に生かし、生活者の共感を企画に反映させた佐賀県の取り組み「23時の佐賀飯アニメ」を紹介させていただきましたが、もう一つ、大学の新しい取り組みをご紹介いたします。

 

■『ReTACTION』開設とその背景

龍谷大学は京都市などにキャンパスを置き、380年以上の歴史を持つ総合大学ですが、2021年春にSDGsをテーマとしたオウンドメディア『ReTACTION』を立ち上げました。
このサイトは読み物形式の記事を高い更新頻度で発信していく、いわゆるブログ型のオウンドメディアサイトで、龍谷大学が掲げる「仏教SDGs」をテーマに、同大学自身の取り組みをはじめ、これにまつわる社会のさまざまな出来事を記事として発信しています。
龍谷大学による「仏教SDGs」の取り組みは、実際には今に始まったことではありませんし、これに関する情報発信も大学ウェブサイトなどで積極的に発信してきています。

https://retaction-ryukoku.com/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなぜいまオウンドメディアサイトを立ち上げたのでしょうか。
この背景には同大学がこれまでのオウンドメディア運営を通じて、情報受信者が望む形で情報を発信するノウハウ、情報を継続して発信するノウハウを蓄積してきたことがあります。
龍谷大学はこれまでに大学ウェブサイトはもちろん、その周辺のサテライトサイト、TwitterやInstagramをはじめとしたソーシャルメディア、そしてウェブマガジンサイトなどを運営し、定期的なアクセスの分析を通じて、生活者の意思・本音を探ってきました。
『ReTACTION』ではそれらの知見を反映し、単なる大学の手前みそ的な取り組み紹介にとどまらない、生活者が親しみやすい読み物として楽しめる形式で情報を発信するという決断をしたのです。

龍谷大学が従来行ってきた多面的なオウンドメディア展開を考えると、『ReTACTION』がいま立ち上がったことの背景に自らが伝えたいことを自らの言葉で表現し、発信するオウンドメディアを脱して、「広聴」と「広報」のサイクルを回す強力なエンジンとしてのオウンドメディアの存在をうかがい知ることができます。

 

執筆

細川細川一成
情報流通デザイン局デジタルアクティベーション部
シニアコンサルタント
2004年に電通パブリックリレーションズ(当時)に入社以来、デジタル分野を主戦場にコンサルティングを担う。WOMマーケティング協議会理事、関西学院大学社会学部非常勤講師。著作に『デジタルPR実践入門完全版』(宣伝会議・共著)、『広報・PR概論』(同友館・共著)、『広報担当者のためのプレスリリースの書き方』(共同通信社)。


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