各国の政治・経済動向が相互に影響を与えるグローバル社会において、諸外国の政策を早期に把握する必要性が高まっています。こうした背景を受け、
当社は「欧州動向分析レポート』 を作成いたしました。

今回のレポートでは「EUの政策形成過程とロビイング」と題し、EUの政策形成過程を概観するとともに、大きな役割を果たしているロビイングにまつわる規制の状況と、近年大きな関心事となっているデジタル関連政策におけるテック企業のロビイング活動についてまとめております。

■レポート構成

  • EUの政策アクターと政策形成過程
  • EUのロビイング規制
  • 加盟国のロビイング規制
  • ロビイングのケーススタディー~テック企業によるロビイングの現状~
  • 今後の展開

 

■エグゼクティブサマリー

欧州連合(以下、EU)は2021年5月現在、27カ国が加盟する超国家組織である。設立された当初はEU域内の個別の政策に役割を発揮してきたが、近年はEUレベルでのルール形成が大きな影響力を持つようになっている。さらにはルール形成が国際競争の主戦場となることもあるため、政策アクターとしてのEU、そしてEUの政策形成過程に対する関心は強まるばかりである。COVID-19を巡る政策においても、ワクチンの共同調達や国境を越えた旅行に関する規制など、EUの動向を理解は、加盟各国の状況理解に必要不可欠だ。

  • EUは主に10の分野(経済・財務/農業・漁業/競争力/外務/一般/教育・青少年・文化・スポーツ/雇用・社会政策・保健・消費者問題/環境/司法・内務/運輸・通信・エネルギー)で、加盟国の政策に影響を及ぼしている。近年その関与は拡大しており、加盟国・分野によっては国内法の約80%がEU法由来であるとの報告もある。

 

  • EUの立法過程においてロビイングは重要なツールとされている。そのため、「EU透明性登録簿(Transparency Register)」でもって、透明性確保が志向されている。2021年5月14日現在、登録されている組織は12,564あり、申告されているロビー活動費は年間約16億~24億ユーロ(約2100億~3100億円)に上る。

 

  • ここ数年、ロビイング活動が飛躍的に増大したのがデジタル・テック分野である。EUがデータ保護やデジタル経済の規制で大きな存在感を示していることが要因であり、EUでのロビー活動費支出額上位10社のうち3社をハイテク企業が占める。中でもGoogleは年間575万ユーロ(約7億6000万円)の支出を申告しており、2014年比360%増となっている。

 

  • ロビイングは企業による直接的な活動に加えて、業界団体、シンクタンク、コンサルタント会社といった第三者機関を通じて多角的に行われるのが通例である。また、EU機関を対象としたロビイングだけでなく、個別の加盟国に対してもロビイングが行われる。

 

  • EU主導での戦略および立法の調整は引き続き行われるが、Brexitに象徴されるように加盟国間の立場や意見の隔たりもあり、審議は長期化の傾向にある。幅広いステークホルダーが、EUや各国政府の動向などを見極めつつ、ルール形成に参画していく意義は大きい。