各国の政治・経済動向が相互に影響を与えるグローバル社会において、諸外国の政策を早期に把握する必要性が高まっています。こうした背景を受け、当社は米国最大のアジア研究を専門としたシンクタンク「全米アジア研究所」(The National Bureau of Asian Research、以下NBR)と米国の対日経済政策の分析、対応・体制強化に関する協力関係を構築し、『ワシントン政策分析レポート』 を作成しております。

本レポートは、米国のアジア外交専門家と、電通PRのパブリックアフェアーズ専門家において4月にオンライン開催された経済政策ラウンドテーブル(円卓会議)に基づいております。

『バイデン政権の気候変動・経済政策と日本』と題した今回のレポートでは、1月の就任以来、より一層表面化してきたバイデン政権の政策を紐解きました。気候変動対策と結びつく通商・インフラ・エネルギー政策の見通し、政権の優先課題、そして日本企業への影響についてまとめております。

 

■エグゼクティブサマリー

バイデン政権の経済政策は気候変動対策という大義と結びついている

米国では、経済政策をローポリシー、地政学的な戦略・政策はハイポリシーと呼ぶが、バイデン政権における気候変動対策はハイポリシーとしての意味合いが強い。日本は、気候変動というアジェンダが外交政策や同盟関係の中核・根幹に置かれている点に注意すべきだ。環境政策だけでなく、通商、インフラ、エネルギーなど多岐にわたる経済政策は、気候変動対策という大義の下で計画・実行される。
米国が中国と気候変動対策について連携することは、戦略的意図を持ったものであり、この分野における交渉チャネルを維持することで、他分野での緊張緩和につながる可能性を残したものである。

バイデン政権の優先課題はサプライチェーンの国内回帰と同盟重視

トランプ前大統領同様、バイデン大統領は半導体産業をはじめとする国内製造業の強化・支援を行い、同盟国間におけるサプライチェーンの再構築を行う。ハイポリシーである気候変動対策を支える経済政策のキーとなる半導体やレアアースは、中国との競争において欠かすことができないが、アメリカにとっては外部依存性が高いため、サプライチェーン上のリスク、脆弱性になっている。同盟国である日本の企業には有利な展開になるだろう。
また、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、グローバルなサプライチェーンの分断を招いた。国内の製造業への投資・税制優遇措置を強化することで、米国内にサプライチェーンを戻し、産業振興と雇用の拡大を実現する。雇用が拡大できれば、2022年秋に予定されている中間選挙を有利に展開することにもつながり、バイデン政権のレームダック化を防ぐことにつながる。

バイデン政権のインフラ、エネルギー、環境政策で日本企業にチャンスが

バイデン政権のインフラ整備計画によって、日本企業にビジネスチャンスが生じるだろう。巨額投資はもとより、米国は中国との軍事・経済安全保障問題があるため、同盟国である日本の企業をサプライチェーンに組み込みやすく、生産・輸出にあたって有利になる可能性が高い。再エネ分野における太陽光パネルや風力発電機の部品、水素発電技術、断熱窓ガラス、EV電池・部品、交通システム、そして将来的には小型原発など、日本の産業界の強みが活きる分野の拡大が期待できる。