企業広報戦略研究所(所長:三浦健太郎、所在地:東京都港区、株式会社電通パブリックリレーションズ内、以下C.S.I.)は、東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター(センター長:田中淳)と、2015年に続き第2回目となる「企業のリスクマネジメントに関する調査」を実施しました。企業向け調査(有効回答数494社)では、C.S.I.の独自指標「リスクマネジメントペンタゴンモデル」で「予見力」「リーダーシップ力」など企業のリスクマネジメント力」を数値化し、生活者向け調査(有効回答数3,000人)では、企業不祥事に関する意識を浮き彫りにしました。


企業調査 2019年の「リスクマネジメント力」全体傾向

「リスクマネジメント力」平均は228.2点。もっともスコアが低かったのは「信頼回復力」

リスクマネジメント力平均(点)(N=494)

独自指標リスクマネジメントペンタゴンモデルでリスクマネジメント力を「リーダーシップ力」「予見力」「事前回避力」「緊急時対応力」「信頼回復力」に分類し数値化しました。各分野100点満点を合計した500点満点で、全体平均は228.2点。
分野別では、全体平均スコアが最も高いのが事前回避力(55.5点)。以下、予見力(49.5点)、リーダーシップ力(48.6点)、緊急時対応力(41.1点)、信頼回復力(33.6点)の順でした。


企業調査 業種別スコアでは電力・ガスがトップ

16業種のうち、危機管理力のスコアが最も高かったのは「電力・ガス」(335.8点)。2位が「金融・証券・保険」(329.8点)、3位は「電気機器」(258.1点)となりました。


企業調査 クライシスに直面していない企業は「緊急時対応力」が低スコア

過去にクライシス(組織にとっての危機が発生している状態)に直面した経験がある企業の平均スコアは267.2点、経験のない企業は180.4点でした。特に差が顕著だった分野は「緊急時対応力」で、経験がある企業が51.8点に対して経験がない企業が28.1点で、23.7ptの差がありました。クライシス直面経験がないと、危機発生時に備えた取り組みが進みにくい傾向が明らかになりました。

クライシス直面経験がある企業/ない企業のリスクマネジメント力平均(点)
(N=487)※無回答7社をのぞいて集計


企業調査 今後強化したい項目は「緊急時対応力」関連がトップ総合スコアが高い企業は「信頼回復力」関連も重視

最も多くの企業が「今後強化したい」と答えた項目は「年1回以上、クライシス発生時を想定した緊急記者会見の模擬訓練の実施」(46.8%)でした。次いで「関連会社(海外現地法人含む)で『クライシス』が発生した場合の対応について、マニュアル・ガイドライン化」(46.4%)など、上位10項目中4項目が「緊急時対応力」関連で、多くの企業が「緊急時対応力」に課題を感じていることが分かりました。

今後強化したい項目上位10項目(%) (N=494)

 

また、総合スコアの高い企業(S~Aランク)では、「深刻な『クライシス』が起きたときに、ステークホルダーの自社に対する反応を把握する方法が定められている(Sランク企業の選択率41.3%)」、「発生した『クライシス』への対応体制とは別に、信頼回復に取り組む体制・ルールが定められている(Aランク企業の選択率47.0%)」といった「信頼回復力」に関する取り組みも今後強化したい項目として多く選ばれる傾向がみられました。


 

企業調査 発生可能性と信頼影響度の高いリスクは「コンプライアンス」「コミュニケーション」
企業において発生し得るリスク30項目に関し、企業が「信頼を損なう」と考える項目と、「発生可能性が高い」と考える項目のそれぞれを指数化し、マッピングしました。両軸で高い数値がみられ、発生可能性が高く、かつ発生した場合大きく信頼を損なうと考えられたリスクは、「クレームへの不適切対応が発覚」「過重労働・労働契約に関する問題が発覚」などで、コンプライアンスやコミュニケーションに関するリスクが多い傾向でした。


 


企業調査 生活者調査 企業業と生活者の不祥事に対する意識ギャップ

企業において発生し得るリスク30項目に関し、発生したら企業が「信頼を損なう」と考えるリスクランキングと、生活者が「不信感を持つ」と考えるランキングを比較しました。ランキングは選択率が高い順に並んでおり、リスクの分類ごとに色分けをしています。
Top10のランキングをみると、企業は多様なリスクが並んでいるのに対し、生活者は製品・サービス関連リスクが上位に固まっています。企業の上位にある「個人情報の漏えい」「クレームへの不適切対応」「過重労働・労働契約に関する問題」は、発覚した場合その企業全体の体制・体質を問われるようなリスクです。一方、生活者は身近にある「製品」や「サービス」に関連する項目を、不信感を持つリスクとして挙げており、リスクを評価する基準に違いを読み取ることができます。


 

生活者調査 企業不祥事の認知経路はテレビ番組が約9割で圧倒的多数

生活者が企業不祥事を見聞きする情報源として、最も多かったのは「テレビ番組(ニュース、情報番組)」(91.6%)でした。次いで「ニュースポータルサイト(Yahoo!ニュース、Google Newsなど)」(43.1%)、「新聞記事」(39.2%)という結果になりました。信頼しているメディアについても、「テレビ番組」が68.4%で最も高く、次いで「新聞」が39.8%となりました。

 


生活者調査 ネット上で不祥事会見の動画を見たことがある生活者は約4割

不祥事を起こした企業の記者会見動画を、1年以内にインターネットで見たことがあると答えた生活者は40.5%でした。
近年では記者会見がネット上でライブ配信され、そのまま保存されるケースも珍しくありません。会見中の全ての言動が生活者にも伝わっているといえます。

記者会見動画視聴経験(1年以内)の割合(%)
(N=3,000)

 


生活者調査 企業不祥事を知って、商品・サービスの購入をしないと決めた生活者は35.4%

企業の事件、事故、不祥事を知って取ったことがある行動を聞いたところ、「信頼しているメディアで事実を確認した」(63.7%)、「TVや新聞、ウェブ上のニュースなどのメディアで書かれている批判の内容を細かく確認した」(58.3%)など、情報収集や事実確認に関する行動が高くなりました。
一方、企業の不祥事を知って「その企業の商品・サービスを購入しない・利用しないことを決めた」(35.4%)は3人に1人に上りました。「その企業の商品・サービスの不買を身近な人にすすめた」は15.7%、「SNS上で不買を呼びかける投稿をした」は8.0%の人が選択しました。


 

生活者調査 生活者が企業に求める対策は「実質的な対策」と「外部視点の導入」

企業が事件・事故・不祥事を起こした直後、生活者が企業に求める対策は、1位「被害拡大防止」(71.5%)、2位「再発防止策の策定」(55.3%)、3位「現状と対策の情報開示」(48.5%)でした。一方で、「経営トップによる謝罪」は32.7%にとどまりました。謝罪表明は重要ですが、生活者はより実質的に被害拡大防止・再発防止につながる対策を求めていることがうかがえます。

事件・事故・不祥事を起こした企業に求める長期的な対策(=信頼回復策)は、1位「第三者組織による原因究明と提言」(55.8%)、2位「説得力のある再発防止策の公表」(54.4%)、3位「監査・チェック機能の強化」(53.0%)でした。外部視点を取り入れ、透明性を高めたうえで再発防止策を講じることが強く求められています。


 

参考

前回調査(2015年)と今回調査(2019年)の比較

2019年・2015年のそれぞれの調査を比較すると、「予見力」「事前回避力」が大きく伸長していることが分かりました。
「予見力」に関して前回から実施率が大きく伸びたのは「生活者・顧客・取引先等から、自社の経営や商品・サービスに対する評価や問題点を把握し、経営に反映させる仕組み・体制がある」(前回48.8%→今回55.6%)や、「自社にとってリスク要因となりうる、ソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入している」(同24.8%→42.2%)でした。顧客やソーシャルメディアからの情報収集の取り組みが強化されたといえます。
また、「事前回避力」に関し大きく伸長した項目は「全社的なリスクマネジメントを定期的に検討する場(リスクマネジメント委員会等)が設けられている」(同66.7%→89.3%)や、「関係会社(海外現地法人も含む)と連携したリスクマネジメント体制を構築している」(同48.8%→60.7%)が挙げられます。リスクマネジメント体制において社内外での連携強化が進められていることがうかがえます。

※前回調査から各項目は変更されており、比較結果は参考となります。

企業のリスクマネジメントに関する調査とは

「企業のリスクマネジメントに関する調査」は、当研究所が開発した「リスクマネジメントペンタゴンモデル」に基づき、企業のリスクマネジメント力を5つに分類し評価するものです。本調査は日本市場で活躍する企業を対象とし、各社の現在位置を多角的に分析するとともに、各社のリスクマネジメント力向上への道筋を見い出し支援することを目的に実施しています。

「リスクマネジメントペンタゴンモデル」5つのリスクマネジメント力

◆リーダーシップ力:組織的なリスクマネジメント力向上に対するトップなど経営陣のコミュニケーション・実行力
予見力: 将来、自社に影響を与える可能性があるリスクを予見し、組織的に共有する力
◆事前回避力: リスクの顕在化を未然に予防・回避、または、事前に想定し、影響を低減する組織的能力
◆緊急時対応力 : リスクが顕在化した場合に、迅速・的確に対応し、ステークホルダーや自社が受ける被害を軽減する組織的能力
◆信頼回復力: リスク対応の経験と向き合い、再発防止の取り組みを通して社会的信頼の回復を実現していく組織的能力

また本年は、企業に対する調査と並行して、リスクが顕在化した際に生活者が企業に求める姿勢や対応を探ることを目的に、生活者3,000人を対象に企業不祥事に関する意識を調査しました。

 

「リスクマネジメントペンタゴンモデル」算出方法について

本調査は、リスクマネジメント活動に関する設問(50項目)を5つのリスクマネジメント力に分類し、各リスクマネジメント力を構成する10項目の基礎点を各5.5点、15名の専門家(弁護士、大学教授、メディア関係者、広報実務家)が、重要度が特に高いと評価した3項目に1.0点/票を付与(1.0点×15人×3票=+45点)し、基礎点5.5点×10項目+付与点45点の総計100点で各リスクマネジメント力を算出しました。

 

「第2回 企業のリスクマネジメントに関する調査」 調査概要

【企業調査】
調査期間: 2019年7月8日~9月17日
調査対象: 上場企業+非上場企業(売上100億円以上・従業員500人以上の企業)、計4,138社
有効回答サンプル数:494社(回収率11.9%)
調査方法: 郵送調査 (①記入して返送、②インターネットアンケートサイトにアクセスしてオンラインで回答、の2通りを用意)
※調査項目は、前回調査から一部変更しております。
※スコアの値は、少数第2位以下を四捨五入しているため、合計値に誤差が生じることがあります。
【生活者調査】
調査期間: 2019年8月30日~8月31日
調査対象: 20歳~69歳の全国の男女
有効回答サンプル数:3,000サンプル※マクロミル社の生活者モニターを利用
調査方法: インターネット調査

<お願い>
本調査内容を転載・引用する場合、転載者・引用者の責任で行うとともに、当研究所の調査結果である旨を明示してください。

 

調査主体

◆ 東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター(CIDIR)
東京大学大学院情報学環、地震研究所、生産技術研究所3部局の連携により、平成20年4月1日に設立。「情報」を核に「減災」をめざす取り組みを行っている。(センター長:田中淳)
◆ 企業広報戦略研究所(C.S.I.)
企業広報戦略研究所(Corporate Communication Strategic Studies Institute : 略称C.S.I.)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。(所長:三浦健太郎)


 

<株式会社電通パブリックリレーションズ>

電通PRは1961年の創立以来、国内外の企業・政府・自治体・団体の戦略パートナーとして、レピュテーションマネジメントをサポートしています。総勢290人の社員が、データ分析、そしてそこから得られたインサイトに基づくコンテンツ開発と最適な情報流通デザインを通して、クライアントの「社会との対話力」強化に取り組んでいます。2009年および2015年には、日本国内で最も優れたPR会社に贈られる「ジャパン・コンサルタンシー・オブ・ザ・イヤー」を受賞、2018年には「北アジアPRコンサルタンシー・オブ・ザ・イヤー」をThe Holmes Reportから授与されました。

 


【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社 電通PRコンサルティング 経営推進局 押野・岡内
〒105-7135 東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター 35階
Tel:03-6263-9000 Fax:03-6263-9001 E-mail: info@dentsuprc.co.jp
https://www.dentsuprc.co.jp/