週末の夜にテレビを観ていたら、小泉今日子さんが出ていらっしゃいました。宮藤官九郎さんがホストの番組で、その回は本を紹介する内容でした。「今、もう一度読み返したい本」という趣旨のテーマで、小泉さんが挙げられた中の一冊が、何と太宰治の「女生徒」でした。
 さすがのご慧眼と言わざるを得ません。
 太宰といえば、「人間失格」「斜陽」「走れメロス」等々、数多くの著作を残した昭和の人気作家です。もの憂げなポートレートと共に、退廃的で無頼なパブリック・イメージに占められています。
 その彼が何人もの女性になり切って書いた連作小説集。それが「女生徒」です。数々の代表作を押しのけて、個人的にも一番印象に残っている作品です。とはいっても、40年近く前に読んだものですから、今回改めて読み返してみました。
 なるほど、これはすごい。まずは、作家の憑依(ひょうい)ぶりが尋常ではない。端々に太宰のエゴが臭みとしてにじみ出てくるものの、それも許容の範囲内。主人公の一人称で語られる創作世界が、微細過ぎて恐ろしいくらいです。
 中でも、表題作の「女生徒」は、大人になるのを控えた時期の女性の心理を、息もつかせぬ一人語りで、一気に読ませてしまいます。文芸とはよく言ったもので、まさに文章の芸術。いや、太宰の場合は、芸当と言う方がふさわしいかもしれません。文章による芸術は、芥川龍之介とかですかね。 
 小泉さんが挙げられていたのは、「皮膚と心」という作品。こちらも、何ということの無い事象をとらえて、一つの虚構を組み立てている様は見事です。また、出演者同士の話の流れで、向田邦子さんや高峰秀子さんのエッセイについても触れられました。
 この高峰秀子さんによる「わたしの渡世日記」。これは、紛うこと無き傑作自叙伝です。昭和の映画スターである作者が、並外れた文才で自らの生涯を振り返る。映画ファンならずとも、存分に楽しめること請け合いです。と言いますか、私自身も、沢木耕太郎さんの絶賛に従い読んでみたものです。
 というように、誰かのお薦めの本を手に取ってみるのは、本好きにとっては一つの楽しみです。たまに大外しすることもありますけどね。こればっかりは、相性というのもありますので。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。