今一番行きたい場所は早稲田です。理由は、早稲田大学構内に、国際文学館(村上春樹ライブラリー)が完成したからです。
 既存の校舎をフルリノベーションして、村上氏から寄託・寄贈された著作、資料、レコード等を保管、公開する施設。「孔(あな)に入る」というコンセプトをもとに、建築家の隈研吾さんが手掛けた建物です。
 そして、何と、改築の費用は全額、ある著名な実業家の方からの寄付だそうです。こういった話は、社会の文化度の高さを測る指標になるという意味で、非常に喜ばしいことだと思います。
 さて、建物の話に戻ります。入館してすぐ、トンネルを模した階段本棚が目に入ってきます。村上作品はもちろんのこと、その時々のテーマに沿った書籍が並べられています。地下一階には、春樹氏の書斎を丸ごと再現した空間があったり、氏が経営していた千駄ヶ谷のジャズ喫茶「ピーター・キャット」にあったグランドピアノが設置されたラウンジがあったり、一階に戻ると、氏のコレクションが聴けるオーディオルームがあったり。ファンならば、卒倒しそうな空間構成です。
 ただし、訪問するには事前に予約が必要で、それもごく限られた人数です。当然のごとく、予約の枠は一瞬の間も無く埋まってしまいます。実際に行けるようになるのは、いつのことやら。と思いつつ、いろんな雑誌やサイトの記事と写真を眺めるばかりです。
 実は、村上春樹氏には、十数年前、恵比寿のオープンカフェで遭遇したことがあります。2~3個先のテーブルで静かに本を読みふけっているおとなしそうな男性。それが、彼でした。あまりに普通で、あまりに自然な気配で、ほとんど気付きようもないくらいでした。
 心の中では、「あの偉大な作家が今、目の前に存在している。この同時代に同空間に存在するのだ!」と、全く当たり前の事実からくる感慨が渦巻いていました。それ以上でも、それ以下でもないのですが。もちろん、声なんか掛けません。それが、あるべき村上春樹ファンのお行儀です。
 それからしばらくして、もう一度どこかですれ違った記憶が確かにあります。でも、不思議なことに、いつどこでの出来事なのか全く覚えていません。文字通り、孔に入り込んでしまったような記憶です。これも、村上マジックのうちなのかもしれませんね。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。