今回は、私が審査員を務めたアジア地域最大級の広告コミュニケーションアワード「Spikes Asia(スパイクスアジア)2019」PR部門の受賞作品を紹介します。

グランプリを受賞した中国(テンセント)の「A Team of One」は、臓器移植ドナー登録の推進キャンペーンです。17歳という若さで亡くなった青年から臓器提供を受けた、年齢も性別も居住地域も異なる5人が、青年の夢だったバスケットチームを結成して、プロチームと親善試合を行う、というストーリーです。

ドナー制度を知らない中国人がほとんどで、文化的にも死体を傷つける行為を受入れがたいという背景がある中で、ドナー登録の、命をつなぐ意義を感動的に伝えた点が評価されました。また、実際にドナー登録者が前年の4倍以上に増加した結果も後押しをしました。

ゴールドを受賞したパキスタンの「トラックアート・チャイルドファインダー」は、SNSはもちろんマスメディアも普及していない地域で、さらわれて行方不明の子供の手掛かりを探すために、地方を走るトラックをメディアとして使うというアナログなアプローチが、強いインパクトを与えました。こちらの活動も実際に多くの問い合わせがあり、7人の子供が発見され家族の元に戻ることができた、という結果を生んでいます。

一方、審査の課程では、PRだからといってSocial Goodなテーマばかりを評価していいのか、マーケティングキャペーンも評価すべきでは、といった意見も出されました。多くのPR会社にとって、実際の業務はマーケティングPRのほうが多いのに、ということです。シルバーですが、オーストラリアの「マックピックル」、インドの「ボイスオブハンガー」といったSNS活用のマーケティングPRが選出されました。

マックピックル」は、マクドナルドがエイプリルフールに中身がピクルスだけのハンバーガーを販売するという企画で、「ボイスオブハンガー」は、フードデリバリー会社のキャンペーンで、スマホに吹き込んだ音声の波形を、串焼きや魚など食物の形状に似せて投稿するというチャレンジものです。いずれもちょっとひねったアイディアでSNS上の関心を集めて成功したもので、マーケティングPRではSNSやインフルエンサーをいかにうまく活用するか、も評価の大きなポイントになりました。

また、自治体のプロモーションですが、日本の「レッドレストランリスト」(高崎市)がゴールドを受賞しました。後継者不足で事業継続が危ぶまれるレストランを絶滅危惧種(レッドリスト)になぞらえて、さまざまなメディアを通じて話題化に成功、観光客の増加にもつなげた点が、PRが主導する統合キャンペーンとして評価されました。

中国から来た審査員に、「日本人は笑わせようとする、中国人は泣かせようとする」という感想を聞きました。確かに、グランプリの「A Team of One」は、ケースフィルムも泣かせるつくりになっていました(実際に見ながら泣いている審査員もいた!)。一方で、日本の「注文を間違える料理店」(ゴールド受賞)は、認知症の方が働くポップアップレストランを舞台に、注文を間違えることも許容する環境をつくろうというストーリーですが、認知症という深刻なテーマを扱いながら、ケースフィルムに出てくる人々はみな笑顔だ、と彼女はいうのです。そうか、アジアの中では日本は笑い活用の先進国かも、と思いました。

PR部門ではありませんが、Spikesでもっとも注目される(つまり最後に発表される)フィルム部門でグランプリを取った日本の「10秒ドラマ 愛の停止線」も上映中は会場中で笑いが起きていました。もちろん私も笑わせていただきました。

 

こちらで紹介した作品の詳細とケースフィルムは「Spikes Asia」のサイトで見ることができますので、ぜひご覧になってみてください。

https://www2.spikes.asia/winners/2019/